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せんさくさん

せんさくといいます。ふっと浮かんだ言葉に少し文章を付け足して短いお話を考えるのが好きです。

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21時半の電車に乗って帰って来てよ

17/03/17 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 せんさく 閲覧数:242

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21時、携帯の液晶画面に「1件のメッセージがあります」と表示される。
私は家事の手を止めてメッセージを開く。
そこには短く「今日も遅くなります。」とだけ書いてあった。

「定時に上がりやすいらしいから。」
学生だった頃の彼はそう言って今の会社に決めた。家から近いというのも理由の1つだったのだろう。
しかし、現実というのはそう甘くはないもので、彼は今日も残業をしているわけだ。
「日本人は働きすぎなのよね。」
私はため息混じりに独り言をいうと、家事を再開した。

ひと通りの家事を終えて時計を見ると21時40分を指していた。
渋々冷めきった夕飯を温め直す。
先に帰ってきた方が夕飯を作る。22時になったらどちらかが帰ってこなくても夕飯を食べる。それが私たち夫婦のルールだ。
お互い働いているため、次の日に支障が出ないようにと結婚するときに2人で相談して決めたのだ。
まぁ、蓋を開けてみれば彼が先に帰ってくることなどほとんどなく、いつも私が夕飯を作っている状況だ。
家事も分担する約束だったのに気がつけば私が全てやっている。結婚とはこういうものか。

私は温め直した夕飯を前に1人で手を合わせた。
「いただきます。」
1人で食べる夕飯というのはなんだか味気ない。全く同じメニューでも誰かと一緒に食べた方が絶対的に美味しいのだと私は思っている。
箸に手を伸ばしながら時計に目をやる。21時50分。

その時、タンタンタンと階段を登る音が聞こえた。その音はだんだんと近くなって、私の玄関先で消える。
続いてカチャカチャという鍵を開ける音。
私はパッと立ち上がり玄関に向かった。向こうから扉が開くより先に私が扉を押し開ける。
「おかえりなさい。」
「あれ?ただいま。」
彼のキョトン顔に思わず笑みがこぼれる。
「思ったより早かったね。」
「うん、がんばった。」
「そっか、お疲れ様。」
「ねぇ、もうご飯食べちゃった?」
「ううん、ちょうど食べようとしてたとこ。」
「やった!じゃあ、一緒に食べよう。」

彼の職場から家までは電車に乗って約25分。職場から駅までが約5分。駅から駅までが約15分。駅から家までが約5分。
つまり21時半の電車に乗ると21時50分頃家に着くのだ。

約束の時間ギリギリ。
夕飯の支度だって、その他の家事だって私がやっている。
でも、一緒に夕飯を食べられるように帰って来てくれる。それだけで、私は幸せを感じられるのだ。
ねぇ、忙しいのは知っているけれど、明日も一緒に夕飯を食べたいから、21時半の電車に乗って帰って来てよ。


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