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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 図書館にある子どもの本を全て読むこと。 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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田園都市線は過激に走る!

17/03/17 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:2件 ちほ 閲覧数:276

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 田舎から上京してきた私は『田園都市線』をなんと牧歌的な路線名だろうと思っていたが、現実は……なんというか……まぁ、読んでいただければお分かりいただけるでしょう。

「な……何でこんなに混んでるの?! 何かあったの?」
「うるさいぞ!」
 隣の若い男が声を荒らげる。
 私は、身体の左右を人の壁で固められ、少しも動けない。蒸し暑く濁った空気が滞る空間が、私を苛立たせる。他の乗客も同じだろうが、誰一人文句を言わない。都会人は立派だなぁ。新聞や本を読んでいる強者もいるようだ。ページを捲る音が聞こえてくる。あーあ、『憧れの電車通学』のイメージにはほど遠いわ。ハッと我に返った。つり革につかまらないと。え……? つり革が……ない? どこにもない! 私の前にあるはずのつり革が! 
 隣の若い男は、私を無視してる。てゆーか、彼の握っているつり革こそが私の目の前にあるべきつり革で。でも、「私のつり革だ」と文句も言えない。私個人の所有物じゃないものね。……どうしよう。左右からガッシリと人々に固められている私だけど、つり革なしでは、きっと危ないよね? ……あ、電車が動き出しちゃったよ!
「揺れるからな」
 無視男さんが、私の耳に一言囁く。無視するのやめたのかな? ちらりと彼に視線を向けた途端、大きな揺れが襲ってきた。私は思わず両手で目の前の座席の人を越えて窓ガラスを押して身体を支えた。自分の体重だけ支えていればいいはずなのに、電車が傾いているものだから、この車両の乗客全員の体重が容赦なく私を押しつぶしてくる。
「重い……重い……死ぬほど重い……」
 お願い、みなさん私に寄りかからないで。重いんです。圧死しそうなんです。そうでなくても、骨の1本や2本砕けそうなんです。……あぁ、なんか意識がぶっ飛びそうだわ。      
 突然、体が軽くなった。今度は、反対側に傾く。反射的に私はつり革に手を伸ばした。花も恥じらう娘がね、あの無視男さんの手の上から、えぇ、ガッシリとね、にぎっちゃったのよ!
「離せよ!」
「離せない! 離したくないんじゃなくて、離せないの!」
「どう違うんだよ」
「えーと、それは……」
 また、こちら側にぐらりと傾いた!
「キャアッ!」
 一瞬、女らしい悲鳴を上げた。次の瞬間、身体はつり革を軸にしてグルンと半回転し……気がついたらこんなに混んでいる車内で、私は別世界の安定感を得ていた。けれど、その安定感が、有り得ないほどの違和感。妙に周りからの無数の視線も感じる。
「な……なに?」
 ふと背後を見ると、見知らぬ小母さんがニコニコしていた。……なんで? ……違う。なんで、じゃなくてこの状況は!
「すみません、すみません、すみません!」
 背後の女性に、ひたすら謝った。私の前に座っていたその女性の膝の上に私は座っていた! あ……立たなくちゃ! でも、立てないよ。どう膝に力を入れても、まったく動けない。どうしよう。私、そんなに軽いわけでもないのよ。あぁ、どうしよう!
「座っていてもいいですよ」
 小母さんが、私に笑顔で囁いた。優しい人だ。地獄で仏に会ったようだ。
ともかく立てない以上、そのお言葉に甘えるしかない。でも、いくら許してもらえても居心地は悪すぎる。顔を上げると、無視男さんと目が合った。
「混んでいる時はその波に逆らわず、ただもう流されていくのが一番いいぞ」
「まるでクラゲみたい」
「時には、クラゲを真似た方が楽だぞ」
 もうすぐ渋谷だ。もうすぐもうすぐ……早く着いてーーーーーっ!
『──渋谷です』
 車内放送。やったぁ、やっと到着だ! これでやっと自由になれる! ドアが開いてすぐ小母さんにきちんとお礼を言おうと立ち上がったら、私の身体は人波によって、あれよあれよという間に攫われていった。彼女が優しい笑顔で、ひらひらと右手を振っている。
「ご迷惑おかけしましたー!」
 たくさん言いたいことがあったのに、これだけしか言えなかった。
 私は無視男さんの助言通りに、身体を波間のクラゲのように人波に任せてみた。ふわふわと身体が運ばれていく。あら、本当に意外と楽。東京の人は、この時間はみんな『人間クラゲ』になるのね。このまま、学校の正門前まで運んでほしいな。いくらなんでも、それは無理かなぁ? 

──これが、私の人生初の電車通学。小母さんとはあれきり会えていませんが、無視男さんとはその後何度か電車の中で会いました。今でも彼は、不愛想で少しだけ親切。今日も『田園都市線』は、過激に走っています。興味のある方は、一度ラッシュアワーをお試しください!


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このストーリーに関するコメント

17/03/17 まー

優しい小母さんでなによりだったでしょうが……膝に座っている間の心中お察しします(笑)。

17/03/18 ちほ

まー様
コメントありがとうございました。
最悪の状況の中、優しい小母さんには感謝感謝です。
けれど、本当に恥ずかしかったーーーーっ!
読んでいただき、ありがとうございました。

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