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笹山ナオさん

twitter→ asterism0_toki ブログ『徒然なるままにインドア暮らし』はこちら→http://mihonono.blog.fc2.com/ 自作小説の話以外にも、ゲームの話や雑記も載せています。 SF(サイエンス・ファンタジー)やSF(すこしふしぎ)なんかを書いています。

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望んだ失敗

17/03/16 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:2件 笹山ナオ 閲覧数:470

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 まずはネットで情報を探る。薬か、縄か、転落か、はたまた集団か。どれをとってもリスクは避けられないし、必ず誰かに迷惑をかける。それでも、もう私には選択肢がなかった。
 最初に目をつけたのは薬だった。うまくいけば気づかぬうちに終わるらしい。だが思ったよりも量がいる。薬局では一度に多くを買うことができないし、出費もかさむ。できるだけ手元に金は残してやりたい。
 次に気になったのは転落。準備はほとんど必要ないが、後処理が大変らしい。清掃料なんかは遺族が支払うことになるかもしれず、なんとなく後ろめたい。関係のない人を巻き込む可能性もある。
 集団も考えたが、最近はネット上でもかなり規制が進み、仲間を集めるのも面倒だった。ようやく見つけた掲示板にアドレスを書き込んだが、反応は無かった。
 だから私は縄にした。すぐに見つけてもらえるようにすればひどい状態にもならないと思ったからだ。

 方法が決まったので準備を始めた。縄は無かったし、買いに行くのも億劫なのでネクタイを使うことにした。大学の入学式のために、初めて買ったネクタイだ。
 吊るすのはハンガーラックにした。木製で多少耐久性に不安があるが、思いつくのがそれしかない。外でやってはやはり関係のない人に迷惑をかける。
 事前に睡眠導入剤などを飲むと良いらしいが、やはりもう家を出たくなかった。代わりに、輪になるように結んだネクタイには厚手のタオルを巻いた。なんでも首の横を圧迫するようにした方が早いらしいからだ。

 ハンガーラックの端にネクタイを吊るすと、それで仕組み自体は完成した。あとは気持ちの準備だった。まずはスマートフォンのアラームを設定する。明け方五時に鳴るようにし、スヌーズと音量を最大に設定した。こうすることで、朝早くから鳴りやまないアラームを不審に思った人が見つけてくれるだろう
 次に私はスーツに着替えた。これもやはり、入学式のために買った初めてのスーツだった。こんなふうに身なりをきちんとしておくのは、珍しいことではないらしい。女性の場合は化粧をすることも多いと聞く。なんにせよ最後の大舞台だというどこか誇らしい気持ちすら私にはあった。
 最後に音楽プレーヤーでお気に入りのクラシックをリピート再生した。好きな曲を聴きながら、優雅に事を起こしたかった。いや、事を終わらせたかったというべきだろうか。

 そして私は実行した。
 ネクタイに負担をかけると、いきなりハンガーラックは崩壊した。支柱が折れ、私は後ろに倒れるようになった。それでも私は負担をかけるのをやめない。ハンガーラックは斜めに傾いているが、まだネクタイは固定されている。できる限り腰を下ろし、首に力を籠めればネクタイに引っかかっていられた。
 気道が圧迫されているのがわかる。気持ちに反して、身体は必死に息をしようとし、げえげえ、ひゅうひゅうと汚らしい息遣いが、すぐ耳元で聞こえるように響く。手足は無意識に暴れまわり、スーツはみるみるうちに乱れていった。
 涙がにじむのを感じながら、私は、なんて無様なのだろうと思った。なんて醜い姿なのだろう。食いしばった口角の端から涎が垂れて、スーツのシャツが飛び出し、気色の悪い息遣いなのか嗚咽なのか分からない音が漏れ出している。死にたいんだか、生きたいんだか、もはや私にも分からなかった。

 そして、私は失敗した。ついにネクタイを支えていた部分までが壊れ、私は軽い尻餅をついた。それからじっと動かずにいた。咽頭がひどく痛んで、息をするだけでズキズキとする。首を少しでも捻れば、寝違えたような痛みが走る。涙と涎で顔はぐちゃぐちゃで、スーツには擦った後がそこかしこについている。今この時、私はもっとも無様で醜い人間であった。
 あれだけ方法を吟味し、あれだけ準備をしたはずなのに、私は失敗したのだ。
 だが、果たして準備不足を言い逃れようか?
 すなわち、どこかで手を抜いていたとは言えないだろうか?
 私にはわかっていたはずであった。事前に薬を飲んでいた方が楽であることも、縄を使った方がいいであろうことも。それからまた、不安定なハンガーラックよりも、もっと確実な方法があったということも。それはドアであった。例えばドアの外側のノブに紐をくくりつけておき、ドアの上を通して内側へ縄の端を持って来れば、高さも強度もまあまあな仕掛けを作ることができたことを、私は果たして知らなかったのだろうか? そしてそれだけで、人に見つけてもらいやすく、場も汚さないという方法がとれることを、私は果たして考えなかったのだろうか?
 アラームを設定し、音楽を流すなどして場を演出していながら、私が聞いていたのは始終自分の荒い息遣いだけであった。そこに優雅さが欠片もあっただろうか?
 私は、この失敗を望んでいたのではないか?


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このストーリーに関するコメント

17/03/18 クナリ

単純に「本当は死にたくないと思ってる」というのとも少し違う、複雑な心理状態が描かれていると思います。

17/04/16 光石七

拝読しました。
主人公の心情も行動も生々しく、読みながら息が詰まりそうでした。
本気で死にたいと思い実行した結果の失敗。
今すぐ気持ちの整理はできないと思いますが、主人公が現世に留まるプラスの力が少しずつでも蓄えられていくよう願っています。

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