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額縁の向こう

17/03/16 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 だらけネコ 閲覧数:199

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カチッと小さな音が響く。

パイプ椅子に座って小説を読みながらパソコンを睨み付けている彼をチラリ、伺う。
パソコンの周りにはL判の写真が幾つも散らばっている。

「ねぇ。」
「なぁーにー?」

印刷機とパソコンをいじりながら、彼は間延びした声で返事をする。

「君の写真は、電車とかばかりだね。」
「そりゃー、好きですから?」
「なんで疑問形?」

椅子から立ち上がり、彼のそばへと寄る。試し刷りのL判の写真を2枚手に取り、見比べる。同じ写真のようだが明るさを変えているようだ。

「これは新幹線だろ?で、こっちは京阪電鉄。あれが大学の近くを走っている電車で…。」
「よくわからないよ。違いなんて。」

ぽつり、呟く。

思えば、彼は写真部に入部してからずっと電車ばかりを撮っている気がする。いや、入部する前からか。

一眼レフを構えて、レンズを変えて、走っている電車を、止まっている電車を撮る。

夏の合宿の時、何故か朝早くに電話で起こされて近くの駅に連れていかれた。寝起きで歩みが遅い私の腕を引いて連れて行かれたそこで、彼は無言で写真を撮り続けた。なんで私を連れて行ったのかは何度聞いても教えてはくれなかった。

色々なことをグルグルと考えていると彼は突然立ち上がり、段ボールに入っている額縁を漁りはじめた。展示会に出す写真がようやく決まったようだ。機械音のする印刷機から出された写真2枚を眺める。

「これ、新幹線だよね。2年くらい前にできた。もう1つは…。」
「大学のそばを走っている電車。」

彼はそう言いながら丁寧に写真を額縁の中に入れていく。
新幹線の写真はどこか高いところから撮られたのだろうか。小さめに映っている気がする。逆に電車は近くで撮られたようだ。

彼は額縁を壁に立てかけ、私の近くに座り込む。試し刷りしたL判の写真を私に渡した。

「俺さ、速い新幹線より各駅停車の方が好きだなぁ。」
「なんで?新幹線の方が早く目的地に着くでしょ?」
「分かってないなぁ。」

わざとらしく、溜め息を吐かれる。イラッとした私は彼の頭を軽く叩く。」

「暴力反対ー!」
「五月蠅い。で、なんで?」

彼は小さく笑いながら私に目を合わせてくる。

「夏の合宿の時にさ、朝一緒に電車撮りに行ったよね。」
「それ違う、君一人で撮っていたじゃん。」
「そうだっけ?」

ケラケラと笑いながらその時の電車の写真をそっとなでる。赤い色がまだ出たばかりの日に照らされて、少しまぶしかったのを思い出した。

「あの時さ、俺お前と一緒にあれに乗りたいって思ったよ。」

目を見開いた。

「あの電車だからってわけじゃないよ。」
いや、あの電車かっこよかったけどさ。そう付け加える。

「合宿で決められた場所を撮るのもいいけどさ、何も考えずにたどり着いた場所で写真を撮るのもいいなって思った。」

そういって彼はお気に入りのカメラを手に取りいじり始めた。

その言葉を聞いて、彼が各駅停車の電車が好きなわけが分かった気がした。

壁に目を向けると2つの額縁に収められた写真。その写真たちは彼の技術のおかげか、今聞いた話のせいか、額縁の向こうから今にも飛び出してきそうだった。
ガタン、ゴトン。そう聞こえ始めたような。脳に響く音を聞きながらゆっくりと彼の方に首を傾ける。
ビクッとした彼は驚いた顔をしながらカメラをいじる手を止めた。

「春休み、どこか行こうか。」
「…え?」

ゆっくりと目を閉じる。

「行き先を決めずにさ、来た電車に乗って写真を撮りに行こうよ。私は電車の撮り方分からないから、乗った電車は全部君が撮ってね。」

「…分かった。」

左手にぬくもりを感じた。

閉じた瞼の裏側に、彼が撮った写真が見えた気がした。いや、これは写真ではない。

ゆっくりと手をつなぎながら、私たちは額縁の向こう側へと手を伸ばした。


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