1. トップページ
  2. 猫と彼女と勘違い

深山 悠花さん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

猫と彼女と勘違い

17/03/15 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:1件 深山 悠花 閲覧数:234

この作品を評価する

ちょっと待て。どうした、何が起こった?
今、目の前には、一人の女の子。どう見てもかわいい部類に入る。その彼女が、俺に向かって手紙を差し出している。「受け取ってください!」のセリフ付きだ。
 これってもしかして、告白ってやつ?いや、ありえない。だって俺は、学校でも一二を争うダサ男だよ。成績だって中の下くらい。背だってそんなに高くないし、顔だって普通じゃないだろうか。見た目に関しては、自信をもって自信がないと言える。それなのになぜ?
 「あの…」
俺が言葉に詰まっていると、彼女は不安そうな顔をしてこちらを見上げてきた。
「…何で?どうして俺なの?」
やっと出てきた言葉は、何ともマヌケなものだった。
「ちょっと前に木から降りられなくなった猫、助けた事ありますよね。それ見て『やさしい人だなぁ』って思って…それで私…」
 …思い出した。確か2ヶ月ほど前、体育祭が終わった後にそんな事があったっけ。
渡り廊下のすぐ横にある、猫好きの俺お気に入りの猫溜まり。そこに行く途中で、俺の耳は小さな猫の鳴き声を捉えた。どこからだろうとあたりを見回すと、今度は俺の目が木の上で不安げに鳴いている猫の姿を捉えた。
 木登りは得意ではないが、何とか猫がいる枝までよじ登り捕まえると、ゆっくり慎重に降りる動作に入る。が、案の定足を滑らせ、どさりと重い音を立てて地面に叩きつけられてしまった。下が柔らかかったから骨折はしなかったが、右腕と背中に痛みが広がる。その痛みに動けなくなっている間に、猫は左腕からするりと抜け出し、走り去っていった。
 “…つめたいなぁ…”
そう思いながらも、ほっとした気持ちで見送った。
痛みが少し引くと何とか起き上がって、持ってきた煮干しを木の下に袋からあける。さすがに長居をしてはマズイ。俺は、煮干しに集まってきた猫たちを視界の端に納めると、体を引きずるようにしてその場を去った。
そしてその夜、その怪我のせいか元々風邪気味だったせいか、俺は高熱を出してしまった。

 高熱は、翌朝になっても下がらず、俺は学校を休むことになった。そうなると心配なのが、猫たちの食事だ。基本野良なので、一日一食やればいいのだが、それでも一日空いてしまえば飢えてつらい思いをすることになる。困ったなぁ…と思って布団をかぶっていると、突然部屋のドアが開いて、兄が顔を出した。
「熱出したんだってな。どうだ、調子は?」
「…あのさ、頼みがあるんだけど…。」
「えっ?なに」
 前からこの兄には、俺が毎日猫に餌やりをしている事は話してあった。そこで俺の代わりに猫に餌をやって欲しいと頼んでみた。
「あっ、いいぜ!」
快く引き受けてくれた兄に「それじゃあよろしく」と言い添えて制服を指し示す。俺と違って背は高いのだがスレンダーなので、ちょっとつんつるてんになる程度で着る分にはさして問題はない。
「ありがとう。頼んだよ。」そこまで言って、俺は意識を沈めた。その後、兄の「ミッション、コンプリート!」の声と制服が俺の部屋に帰ってくるまで、俺は浮上しなかった。おかげで、翌日には割と元気を取り戻し、学校にも行かれたのだ。
 「あの時っ…猫抱いて飛び降りるところ見て、それでドキッとしちゃって…あのっ…」
そこではたと思う。
猫抱いて飛び降りる?
あれ?俺、確か落っこちたんだよな、結構カッコ悪く。
この“ドキッ”っていうのは、“ヒヤッ”ってしたのと同意義じゃない…よね。え?あれ?これって…。
「あーあのさ。それって、いつのことだったか覚えてる?」
「えっと…確か体育祭の次の日…」
ああ、やっぱり。
「…ごめん、それ俺じゃなくてたぶん兄貴だ。」
思わず苦笑いを浮かべる。そして、前日に木から落ちた事、それが原因で熱を出して学校を休んだ事、猫の餌やりを兄に頼んだ事を説明した。
「じゃあ、私が見たのは先輩じゃないんですね。」
目の前の彼女から、あからさまにガッカリした空気が伝わってくる。
「それ、兄貴に届けるくらいできるよ。あ、でも名前は書き替えたほうがいいかな?」
「えっ?ああ、そうですよね。」
「俺、明日もここに来るからさ、名前書き替えて持ってくれば預かるよ。」
「あっ、はい…」
うなだれる彼女に“じゃあ、明日”と言って背を向ける。
せっかく勇気を出して告白したのに、人違いだったなんて、何だか悪いことしたなぁ。誰かを傷つけようとしたわけじゃないのに、どこで失敗したんだ?このまま彼女の話に合わせておけば、彼女と付き合えた?これも失敗?
まぁ、仕方ないか。俺は学校でも一二を争うダサ男。失敗の一つや二つ、日常茶飯事だ。ため息をついて、俺は鞄を抱えて校門に向かった。

翌日。
今、俺の目の前には、昨日の彼女。俺に向かって手紙を差し出している。宛名は兄…じゃなく俺。
ちょっと待て。どうした、何が起こった?


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/03/18 クナリ

少し切ない笑い話かと思いきや、ラストのお陰でより印象深い、爽やかな恋物語になるとは、してやられました……!

ログイン
アドセンス