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黒丞さん

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誰も知らないぼくときみ

17/03/15 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 黒丞 閲覧数:154

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カタンカタンと揺れる車窓から、今日も青い空が透けて見えた。どうにも眠い午後2時の気怠げな雰囲気漂う車内には今日もぼくときみ以外存在しない。またひとつ枕木を超えたのだろう、カタンと電車が音を立てた。ぼくときみの間に会話は存在しない。ただ静かに静かに時間が流れるだけだ。
そもそもぼくはきみがどこの誰かも知らない。たまたまいつも同じ時間の同じ電車に乗っている女の子、という全く物語もはじまりそうにない関係性。それはきっときみにとっても同じで、ぼくのことなど知る由もないだろう。恋愛小説なら、ほんとは女の子はぼくのことが好きで毎日同じ電車に乗っていた、なんていう素敵な展開になるのだろうが、そんなのリアルにあり得るわけがない。大体ぼくのようなどこにでもいるような顔と人生の人間がそんな高望みをするもんじゃない。電車での出会いが人生を変えるなら、幼い頃から電車に乗ってるぼくの運命はそろそろ素敵なものになっていても良い頃というのがその証明だ。
ぐだぐだとくだらない妄想に思考を巡らせている間に目的地が近づいてきた。毎日ぼくはそこから電車に乗って、毎日そこで電車から降りる。そんな見慣れたホームが眼前に迫ってきた。
座席に沈めていた重い腰を上げ、ドアに向かい歩きはじめたとき、か細い声が聞こえた。
「あの…」
電車にはぼくときみしかいない。ということはこの声の主はあの子だ。ぼくは驚きに硬直していた体を動かし、振り向いた。あの子と目が合う。真っ直ぐな瞳に心臓がドキリと鳴った。
「あの、毎日アナタと同じ電車に乗っているんですけど、気づいてましたか?」
な、なんだこれは?先ほど自分が妄想していたことが現実に起きてしまうというのだろうか。そんなまさか。
「あ、ああ、うん。」
動揺のあまりクールな対応できない自分に愕然としつつも、何とか会話は返せた。
「そうですか…それで質問なんですけれど、電車を降りてからアナタはどこに行かれてるんですか?」
どこって言われましても家に帰っているだけだしなあ、と思いつつ、彼女の質問の意図が理解できず、不審な目で見つめた。そんなぼくの戸惑いを感じ取ったのか、彼女が続けた。
「変なことを聞いてごめんなさい。…でも、気になるんです。」
ぼくの行き先が気になるということはやはり彼女は…ニヤケかけた頬に彼女がぶつけてきたのは、信じられない言葉だった。
「あなたが降りるホーム、いつも先が見えないくらい真っ暗なので。」
「…え?」
真っ暗?特別綺麗とは言えないが、普通の駅と言えるぼくの停車駅が真っ暗とはどういうことなんだろう。
もしかしてからかわれているんだろうか?
「からかってるですか?」
ぼくが返した言葉に彼女は、ゆっくり首を振り、緩慢な動きで人差し指を伸ばすと、窓の外を指差した。
「ほら、真っ暗。」
ガタンっ、と一際大きな音を立てて、電車が停車した。突然の衝撃にぼくは床に倒れ込んだ。
冷たい感触に目を開けると、いつの間にか知らない場所にいた。
眩しい光が目を刺して、思わず目を背ける。
さっきまで電車に乗ってたはず…働かない頭で考えていると全身に痛みが走った。体験したことないような痛みと体の重みに顔をしかめる。
自分の体を見ると、全身包帯に巻かれ、腕には点滴が繋がっていた。どういうことだ。状況が飲み込めないぼくをよそに、すごい勢いでドアの開く音がしたかと思うと、誰かが走って近づいてきた。

ずかずかと入り込んできた人物がぼくの顔を覗き込む。
「あ…。」
驚きに声を忘れてしまったのか、ぼくの口から出たのは意味のない音だった。
顔を覗き込んできたのがあの子だったからだ。そう、さっきまで電車で一緒だった彼女だ。
「…何で?何であのときわたしを助けようとしたんですか?」
彼女はぼろぼろと涙を零しながら、突然喋り出し、こう続けた。
「わたしはもう終わらせたかった。ひとりで死にたかった。なのに、なのにあなたが…」
…そこで思い出した。
いつも一緒の電車に乗っていた彼女が、ある日ふらふらと迫り来る電車に近づいて行ったあの日を。
危険を感じたぼくが彼女の手を引いてそれから…。
「…関係ないのに、あなたは関係ないのに…。」
迫り来る電車と次の瞬間の衝撃。ぼくは彼女の代わりなった。
そうか、あの日のぼくは彼女を守れたのか。彼女の涙を顔面いっぱいに受けながら、ぼくは微笑んだ。
乾いた喉から精一杯の言葉を絞り出す。
「きみを、まもれて、よかった…。」
それにこうしてきみがぼくを呼び戻してくれたじゃないか。それもぼくの夢だったのだろうけど。
満足感に笑うぼくをよそに、ぼくのことなど知る由もないきみはやっぱり泣き続けるだけだった。
毎日同じ時間、同じ電車に乗っていた、ぼくの恋するきみが。





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