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ポテトチップスさん

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零れる2人の涙

12/11/13 コンテスト(テーマ):第十九回 時空モノガタリ文学賞【 クリスマス 】 コメント:3件 ポテトチップス 閲覧数:2635

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シトシトと降る雨が傘にぶつかり音を立て、遠くの方からは酔っ払いと思わしき複数の男性の甲高い叫び声が聞こえていた。
達也は足を止めて後ろを振り返ると、美鈴が俯き気味で後ろをついて来ていた。
美鈴の後方では、雨の中でも2012年のクリスマスを楽しもうとするカップルが、手を固く繋いで繁華街の方に歩く後ろ姿が見えた。
「美鈴、ちゃんと傘させよ」
髪と肩が雨で濡れた美鈴が顔を上げて頷き、傘を開いた。
「達ちゃん、愛してるよ」
「俺も美鈴を愛してるよ」
寒さで頬が赤く染まった美鈴は、寒さで硬くなった顔に笑顔を作った。
達也はジーンズのポケットから財布を取り出し、中を見た。
千円札が1枚に小銭だけが入っていた。
「美鈴」
「何、達ちゃん?」
達也は、前方の路上で屋台を営業しているおでん屋を指差し
「おでん、食べようか」
「お金、ないでしょう?」
「ちょっとだけならあるさ。でもごめんな」
「何が?」
「クリスマスだっていうのに、プレゼントすらあげられなくて……」
「んん、達ちゃんと一緒にいられるだけで私は幸せよ」
屋台のおでん屋に入ると客は1人もおらず、初老の店主はタバコを吸いながらスポーツ新聞を読んでいた。
「いらっしゃい。何にします?」
「千円で食べられる分だけ、取り分けて下さい」
「はいよ」
横に座る美鈴に顔を向けると、肩まである髪先から水が滴り落ちていた。
達也はそんな美鈴の頭に手を乗せ、それを自分の口元に近づけて髪にキスをした。
美鈴は小さな声をあげて泣き始めた。

1ヶ月前の11月24日の夜中、達也と美鈴は大きなバッグを持って、東京行きの電車に乗っていた。
達也はこれで俺たちは、自由になれるのだと確信していた。
高校3年の達也は、同じ高校に通う高校1年生の美鈴と付き合っていた。
11月に入ってから、美鈴のお腹の中に達也との間の赤ちゃんがいることを知った。
達也と美鈴は、高校を中退して一緒に人生を歩む道を選ぼうとしたが、両家の両親は大反対をした。
両家の親同士が話あって、11月24日の日に堕胎手術を美鈴に受けさせる事を一方的に決めた。
だから11月24日の日に、両家の親に黙って達也と美鈴は駆け落ちした。
東京に行けば、何とか生きられるだろうと短絡的に考えて東京を目指した。
所持金は2人合わせて15万円少々だった。
東京に上京してからはアパートを探したが、未成年の2人にアパートを貸してくれる大家は見つからなかった。
達也と美鈴は、世間の厳しさを肌で感じた初めての事であった。
住む場所が決まらない2人は、連日ラブホテルに宿泊した。
日中の達也は、街中でもらったフリー求人誌に掲載してある企業に、片っ端から電話をかけたが、未成年のうえに住所が定まらない達也に、やはり世間の目は厳しかった。
ただ美鈴と生まれてくる子と3人で暮らしたいだけなのに、どうして親も世間も厳しくするのかが、18歳の達也には理解出来なかった。

店主が、大皿に複種類のおでんを取り分けて、達也と美鈴の前のテーブルに置いた。
屋台の隅に置いてあるラジカセからは、ワムの『ラスト クリスマス』が流れていた。
「美鈴、食べな」
涙が少しは治まった美鈴が、うんと頷いて割り箸を手に持った。
店主の初老の男性は、またスポーツ新聞を開いて読み出した。
よく味の染み込んだ大根を口に入れると、その温かさになぜか泣きたくなってきた。
やっていけると思って、美鈴と一緒に東京に駆け落ちしてきたのに、世間はとても2人に冷たかった。
いや、世間を批判する前に自分の考えの幼稚さを責めるべきなのかもしれない。
「おじさん」
「はいよ」
「お酒って、一杯いくらですか?」
「180円」
達也は財布をポケットから取り出し、小銭を確かめた。
「おじさん、お酒一杯下さい」
「はいよ」
店主は日本酒をコップに並々に注いで、達也の前に置いた後、またスポーツ新聞に顔を戻した。
「達ちゃん、お酒飲めるの?」と、美鈴が耳元で呟いた。
達也は小さく頷くと、初めて飲む日本酒を一気に喉に流しいれた。
涙が出た。声を殺して達也は泣いた。
美鈴は、黙って達也の肩を何ども小さく叩いた。

おでん屋の屋台を出ると、雨は幾分か止んでいて傘は必要なかった。
2人はしばらく歩き、川の流れる橋の上で足を止めた。
2人は夜の川を橋の上から眺めた。
美鈴が達也の腕に腕を絡め、無言で達也に体を寄り添わしてした。
「美鈴、電話するから……」
「うん……」
達也は、携帯電話から実家に電話を掛けた。
実家の両親は、安堵の溜め息を漏らしながら、すぐに車で迎えに行くと言って電話を切った。こちらに到着するのは早朝らしい。
隣で美鈴が泣いていた。
達也も悔しさに涙が零れて、嗚咽をこらえた。


    終わり (作り話です)


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このストーリーに関するコメント

13/01/08 草愛やし美

ポテトチップスさん、拝読しました。

若い二人に幸あれと祈らずにはいられません。おでんの温かさが身に沁みたでしょうね。授かった子供を堕さないで産もうという選択に頑張れと応援したいです
作り話ですとお断りが末尾に書かれていますが、臨場感あって2000文字という制限された掌編なのに、読みごたえあると思います。

13/01/08 クナリ

長編作品のワンシーンのような迫力がありました。
ただ単に「愛があれば何とかなるさ」で逃避して終わりではなくて、向き合わなくてはならないものから逃げまいとする意志みたいなものも感じました。

13/01/09 ポテトチップス

草藍さんとクナリさんへ

嬉しいコメントありがとうございます。
今回、初めて私は『時空モノガタリ賞』を頂きました。
まさか自分の書いた作品が、『時空モノガタリ賞』に選ばれたことに、
正直驚愕しています。
嬉しすぎて、今晩は眠れないと思います。

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