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家永真早さん

ブロマンスやロマンシスが書きたい。 何気ない日常や、日常の中の非日常を書くのが好きです。 http://ienagaworks.php.xdomain.jp/

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さよなら、またね

17/03/14 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 家永真早 閲覧数:282

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「ありがとね、送ってもらって。兄ちゃんによろしく言っておいて」
「うん。街に出るついでだって言ってたけど」
「こんな早くからどこに行くのさ」
「だよね」
 朝8時、新幹線の停まるホームで、優月と紗菜は顔を見合わせて苦笑した。
 3月、卒業式の一週間後。優月は進学のために東京へと出て行く。
 空気はまだ冷たく、二人は日の当たる場所を選んで立っていた。吐き出す息はもう白くない。
「東京かぁ。修学旅行で行ったきりだなー」
「遠いもんね」
「……ん、遠い」
 優月の何気ない返しに、紗菜の言葉が詰まった。少しだけ沈黙があって、「ほら」と優月は線路を指差した。
「この線路が、東京まで繋がってる」
「そっち逆じゃない?」
「茶化さないでよっ。……もう、とにかくね」
 紗菜に指摘されて、優月はさりげなく指差す方向を変え、話を続ける。
「この線路、東京まで繋がってるから、いつだって行けるよ」
「そだね」
「そだよ」
「この線路を歩いてったら優月のとこに着くんだね」
「そこは電車乗ろ!?」
 弾かれたように笑う二人の声が、人のまばらなホームに響いた。
「ゴールデンウィークになったら、遊びに来なよ。すぐだよ」
「うん」
「夏休みにも来なよ。ずっと泊まってれば良いよ」
「うん」
「でもそんなことしてたら友達できなくなっちゃうか」
 優月は首を傾げて頭を掻いた。
「友達かぁ」
 呟いて、紗菜は息を吐く。
「私たち、どんな風に友達になったんだっけ。覚えてる?」
「んー、二年からだったよね、確か」
 顎に親指を当てて、優月は視線を上にやった。
 中学校は異なり、一年生でもクラスの違う、部活も違う二人は、二年生で初めて同じクラスになり、出会ってから少しずつ親しさを深めていき、三年生になってからはほとんどの時間を一緒に過ごした。
「思い出した。パンもらった」
 目を上に向けたまま、手のひらを拳で打って優月は答えた。
「あー……、初めて話したのがそこだよね」
「あー、餌付けされたんだぁ」
 二人はまた笑った。
 笑いがやむと、静かな時間が訪れた。
 ちぎれた雲が三つだけ浮かぶ青い空。家の屋根の群れ。その向こうに見えるうっすら雪をかぶった山。薄汚れた駅の屋根。つばめの巣の残骸。緑色の四角い時計は8時10分を指している。発車まであと5分。優月は、あちらこちらに視線を動かした。紗菜は新幹線と反対側のホームを眺めて何回も瞬きをしていた。
 視線を落とした優月は、紗菜の手に触れた。どちらからともなく手を繋ぐ。色違いでお揃いの手袋越しにお互いの体温が伝わった。
「着いたらもう荷解きするんでしょ? 手伝いに行けばよかったな」
「そんなにないよ。ありがとね」
 駅のホームが騒がしくなり、団体客が新幹線に乗り込んで行った。
「席、大丈夫?」
「指定席だよ」
「お父さんが用意してくれたんだよね」
「うん」
「よく東京に行くの許してもらえたよね」
「そうだね」
 二人は時計を見ながら話した。
「変な人に付いてっちゃいけないよ」
「うん」
「優月は食いしん坊だから、食べ物に釣られちゃだめだよ」
「本当、そうだね」
 優月は顔を俯けて小さく笑う。
「そうだよ」
「そうだね……」
 時計の長い針がひとつ進んで、発車一分前になった。
「もう乗った方が良いね」
「うん」
 優月は新幹線へと歩み寄って、手を解こうとする紗菜を引いた。驚いた紗菜の顔を見て、優月は歯を出して笑う。それから一度強く手を握って、歩いて行きながら指を一本ずつ開いていった。
「どうせ発車したらすぐLINEするから」
 新幹線のデッキとホームとで、向かい合って立つ。
「うん」
「まあ、私も休みには帰って来るし」
「うん」
「じゃあ、兄ちゃんによろしくね」
「うん」
「ありがとね」
「うん」
「帰りは気をつけて」
「うん」
 紗菜はただ大きく頷いて返事だけをしていた。
「元気でね」
「うん。……優月も」
「……うん」
 発車を告げるベルが鳴る。紗菜は一歩下がった。
「またね、バイバイ」
「またね」
 軽く手を挙げた二人を、薄いドアが遮った。
 優月の笑顔を乗せた新幹線はゆっくりと東京へ向かって走り始める。見送る紗菜もまた笑顔だった。
 紗菜は二、三歩新幹線を追いかけて止まった。新幹線は速度を上げていく。
 長年見知った街の景色は、優月の瞳の中で滲んだ。


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