宮前月子さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

期待

17/03/14 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 宮前月子 閲覧数:243

この作品を評価する

 駒江さんは社会人一年目の二十三歳だ。愛想がよかったり悪かったりする普通の子だ。
 駒江さんは作業着であるウィンドブレーカーを羽織って、ボブヘアーを掻き上げる。要領さへ掴んでしまえば、誰にでもできる仕事を早速退屈そうにこなす。規則的にパソコンのキーボードを叩く。駒江さんは話しかけるとそっぽを向いて返す。先輩だろうが、上司だろうが、中々その大きな黒目に捉えられることはない。だけれどお客さんとしてくれば、駒江さんはその目を三日月型にして、お話してくれる。まるで皆から愛されているような顔をする。その目は誰も見ていない。僕はその目が大好きだ、そんな目をする駒江さんのことも欲しいと思ってしまった。
 最初は食事に誘ってみた、相変わらず目が合わない。駒江さんはお嬢様大学出身ということがわかった。僕がお金を払った。そうして二回三回と食事に誘う。四つ年上の僕に駒江さんは付いてきてくれる、お酒も入れる。駒江さんは飲むと
「お話いつも面白いね」
と敬語も使わず話すようになった。皆が知らない駒江さんが良く、四回五回と仕事終わりに会うようになった。僕は色々知った。兄弟の数、好きな食べ物、こだわりのないお酒、嫌いな仕種、駒江さんの休日の過ごし方。
「駒江さんにも好きなことがあるんですね」
「あってもいいじゃないですか」
そういう駒江さんの目は僕の目をしっかと捉えている。少し酔いにとけたその目は、茶色と黒が混じった目に、ハイライトを入れて、透けて見えてしまった。
 愛されようとしているのが透けて見えてしまった。
 僕は咄嗟に出てしまう。
「僕には無理だよ」
駒江さんの目が一層大きく広がった。びっくりしているのだとわかる。
「僕には、言ってなかったかもしれないけれど、彼女だっているし」
駒江さんの目にはもうハイライトはない、だけど、僕が目をそらしても、ちゃんと見られているのが解る。少しの沈黙の後
「それでも、好きになってしまったんです」
駒江さんは言う。
「私、その声とか、話してる口元とか、すごく好きで、年が離れていてるはわかるのですが、でも私にはもうあなたしかいないというか」
 駒江さんはたどたどしく言葉を続ける。押し通すことに決めたのだろう。酔いに酔った言葉だ。
「彼女がいるのも、わかるのですが」
 強がりを前面に押し出した、震える声で駒江さんは言う。あまりに酔って投げやった言葉だ。彼女の目はもう僕を見ていない、潤みだして、溶けていくその目はやはり誰も見ていない。
「それでも、ねぇ、どうにも愛しくなって、しまったんです」
 駒江さんの手が僕の手に重なる、熱を帯びた手に僕は違和感を感じる。
 駒江さんがキーボードを叩く手はもっと冷たいはずだ、駒江さんの声はもっと硬かったはずだ。それに、駒江さんは、こんなことを言わない。
 何より、駒江さんの目はこんな風に色づいたり、溶けたり、僕を見たりしない。
そんなのはたまに会う彼女だけで充足する。それなのに、駒江さんは一体何をしているんだろう。
「こんなにしておいて、捨て置くんですか」
 駒江さんが僕を責めだす
「彼女のことも初耳だし、私はあなたのなんだったんですか、今までのは私の勘違いですか」
 すっと顔を上げた駒江さんと目が合う。その目はやはり、透けて見える。わずかな期待が、否定をしてくださいと言う期待が透けている。
「できないよ」
 僕はこの日、女の子を泣かせてしまった。それから、駒江さんとは仕事でしか会っていない。駒江さんの三日月の奥の目は健在だ。僕はその目が、駒江さんだなぁと思う。
 そんな僕に僕は嫌気がさしている。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス