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沓屋南実さん

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将来の夢 小説家。 音楽を聴きながら、一日中本を読んで、小説を書く生活。 行きつけの音楽カフェで、皆とおしゃべりすること。
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推薦ワクを巡る黒い噂

17/03/13 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:0件 沓屋南実 閲覧数:317

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「そんなの都市伝説さ、啓介」
 この学校だけではないらしいが、PTA会長の息子用の指定校推薦ワクがあると囁かれている。名門・慶安大学の推薦は数年その伝説を裏付ける結果となっていた。僕の父親もPTA会長。だから、このワクに手を挙げるべきか迷っていた。
 しかし、翔はそんな僕を励ましてくれた。彼は気弱な僕にとって、頼りになる友だちだ。おかげで迷いを振り切り、目標に向かって頑張ることができた。

 高校3年の日々は、慌ただしく過ぎていく。ずっと先に感じていた件の推薦ワクの結果発表は、もうすぐだ。
 下駄箱の近くにある掲示板のまえにたむろす面々。いよいよ、先生が皆が待っていた発表の書かれた紙を貼り出した。
 はたして慶安大学の指定校推薦者に、僕の名はあった。推薦ワクはたった2つ。背後の落胆のため息が、耳に届く。
 推薦からもれた者、ただの物見遊山の者。獲得者に「おめでとう」とか「良かったな」と声をかけるのが、普通の光景だろう。僕にそう言ってくれる奴は少なく、一方で「やっぱりな」とか「親のおかげだな」とざわついている。もう一人の推薦をもらった奴は、祝福を洪水のように浴びている。僕とは大違い。
 昨年は成績がかなり足りないPTA会長の息子が、推薦をかっさらったと陰口を叩かれていた。少なくとも僕の成績は、選ばれても不思議はない程度はある。
 僕と成績がどっこいどっこいぐらいの落選した奴が、僕を睨みつけて言った。
「ふん、どうせ親が頼み込んだんだろ」
 僕が黙っていると、翔が言い返した。
「言いがかりだ」
 別の奴が横から叫んだ。
「去年もPTA会長の息子が入ったな」
 翔は一人僕を弁護してくれた。
「そんなの選んだほうに聞けよ。こいつが何をしたっていうんだ」
「親のおかげでラクしている」
「ズルいぞ」
「卑怯だ」
 彼らは知らないが、僕は言われても仕方がないのだ。親が先生に頼み込んだというのは違うが、歴代のPTA会長にもたらされる、推薦必勝マニュアルがそれだ。その流れに沿っていけば、必ず推薦の加点が上がる。内申点の効率的な稼ぎ方、論文コンテスト応募、全国大会へ出られる部活に入ることなど、長年にわたって収集した情報やノウハウがこと細かに蓄積されていた。
 僕はそれらのうち幾つかに取り組み、結果を出した。努力はしたのだが、やはりどこか後ろめたさはある。特に親友の翔にすら、何も言えなかったから。この推薦必勝マニュアルは、極秘だった。
 翔は、ずっと僕をかばい続ける。翔だって、落選組なのに。
「いい加減にしろよ。何度も言うが、聞くなら選んだほうだろ」
 彼らの興奮は収まらない。 
「そうだな、先生に聞くか」
「去年だって聞きに行ったら、厳正に審査して決まったって返事だったそうだ。ムダだそんなことしても」
 翔は皆にはっきり言った。
「啓介が通ったのは、努力さ。PTA会長の息子だからとか、そんなの都市伝説だよ、僕は彼が一生懸命やってきたのを知っている」
 翔、こいつらの言っていることは、あながち間違いじゃない。そんなに力入れなくていいんだって、心の中でつぶやいた。
「それはそうだろ。推薦対策としてな」 
「証明してみろよ、実力だっていうなら」
「何とか言えよ、啓介。翔にばっかり言い訳させて。受験は親を使い、言い訳は翔か」
 僕を怒らせる気だ。こんなの相手にしないでおこう。そう思ったが、しかし、怒りは急激に限度を越えた。こいつらに対してだけではない、どこへぶつけていいのかわからない、大きな怒り。
「わかった、それなら、慶安と同レベルの大学を一般受験する!」
 皆の驚きの視線が僕に集まった。でも最も驚いたのは僕自身だっただろう。そんな気はまったくなかったから。
「やめとけって、啓介。必要ないよ」
「他に方法ないだろ。やると言ったらやる。受かったら、もう誰にも文句は言わせない」
 不満を言い続けていた面々は、数秒静かになった。
「本気かよ」
「ああ」
 僕は胸を張って、翔とともにその場を立ち去った。

 僕はそれから無我夢中で受験勉強を始めた。母親は最初、僕が推薦を蹴ると思ったのかすさまじい勢いで、僕を説得し始めた。本当の理由がわかると、今度は呆れかえった。しかし、早々と推薦が決まってダレるよりはうんと良いと言ったりして、いちいち鬱陶しかった。
 僕は2校受けて、一勝一敗となった。卒業式のとき、皆が僕を見る目が変わったことを明らかに感じた。やった、やったのだ。やっと僕は実力で結果を得たのだ。晴れ晴れとした気持ちで学校を後にすることができた。受かったのは、翔が行くことに決まった大学だ。
「推薦じゃなかったら、同じ大学に行けたのにな」
 隣を歩く翔は、少し残念そうだ。僕は黙ってうなずいた。何も言う言葉が見つからなかったから。


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