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石蕗亮さん

占師。および魔術師。 WEB幽にて怪談投稿してました。 弟子育成の経験や実体験を基にした不思議な話を中心に書いていきたいです。 沢山の方に読んで頂き、反論含めコメント頂けると幸いです。

性別 男性
将来の夢 作家、起業
座右の銘 人は言葉に置き換えれるものしか理解できない。置き換えた言葉でしか理解できない。

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兄弟からのプレゼント

17/03/13 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:8件 石蕗亮 閲覧数:419

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 その電車は真っ暗な中を走っていた。
外の景色はよく見えない。
停車駅のアナウンスは無く、時折停まっては誰かが降り、誰かが乗ってきた。
不思議なことに一度に乗り降りする人数は何故か1人が多かった。
車掌が電車内を歩いており、誰かの前で立ち止まると「次で降りますよ」と声をかけていた。
大抵の人は素直に指定の駅で降りていたが、中には降りない人もいた。
しかしふと気が付くとその人の姿はいつの間にか見えなくなっていた。
席を移ったのだろうか。それとも私が気付かないうちに他の駅で降りたのだろうか。
私は何人もの人の乗り降りを眺めていた。
電車に乗ってきた人に、車掌は何故か「お疲れさまでした」と声をかけていた。
とても優しい表情で。まるで仕事帰りの人を労うかのように。
中には電車内で待ち合わせをしている人もいた。その殆どが家族のようであった。
そんな中に小さな子供がいた。
車掌が電車を降りて子供を抱え、あやしながら電車に乗るのが窓越しに見えた。
泣きじゃくる子供だったが、電車に乗るとすぐに家族らしき人が来て車掌から引き取っていた。

 相変わらず電車は真っ暗な中を走り続けていた。
何気なく電車の通路に沿って奥に視線を投げると何両もつながっているのか先が見えなかった。
反対も見てみたが同じく先が見えなかった。
何両編成の電車なのかと疑問に思ったが確認しようとは思わなかった。
勝手にこの席から離れてはいけない気がした。
座席指定の特急電車ではなかったが、ここが自分の席だと思っていたし、離れる時は降りる時だと理解していた。
いつから、どこからこの電車に乗っているのか覚えていなかったが、きっと私も他の人と同様にどこかの駅から乗ったはずなのだ。
そして降りるべき駅が近付けば、今まで見てきた人と同様に乗務員が教えにきてくれるはずなのだ。
私はそれまでこの席から見える人間模様を眺めていようと思った。

 相変わらず電車から乗り降りする人は大抵1人で、誰かが降りる時は誰も乗らず、誰かが乗るときは誰も降りなかった。
でもたまに2人で降りる人がいた。2人が降りる時には大抵どちらが先に降りるかでもめていたが、たまに譲り合う人もいて、それは見ていて微笑ましいものだった。
ある時長く駅に停まったことがあった。
その時は珍しく大勢の人が乗り込んできたが、その時の車掌はいつものように労いの言葉ではなく「大変でしたね」と心配したり「落ち着いて奥へ進んで下さい」と指示しか言わなかったりが多かった。いや、かけるべき言葉が見つからないという表情だった。
傍を車掌が通った時に「お疲れ様です。珍しく大勢の乗車客で大変でしたね」と声をかけた。
「しょっちゅうではありませんがたまにあるんですよ。最近は少なくなりましたが、昔は一度に大勢が降りることもあったんですよ」と車掌は疲れも見せずに応えると業務に戻っていった。

 ふとあることに気が付いた。
どこを探しても切符が見当たらない。
自分はこの電車でどこまで行くのだろうと思った際に、切符を見れば行き先が判ると思って探したのだが見当たらない。
これは行き先だけの問題ではなく、乗車賃の問題でもあった。
切符を探した時にもうひとつ気付いたことがあった。財布がない。
このままでは無賃乗車になってしまう。
次に車掌が近くを通ったら正直に言おうと思った。
コツコツコツ
足音が近づいてくる。
「すみません」
手を挙げて車掌を呼び止めると「丁度ご案内に伺うところでした」と応えられた。
「次の駅で降りて頂きます」
「あのう、それが切符を無くしてしまいまして」
「切符でしたらお隣のご兄弟様がお持ちですよ」
そう言う私の隣には兄弟が座っていた。
何故今まで気付かなかったのだろう。いや、私は今の今まで隣に兄弟がいるとは思っていなかった。
その兄弟が手を差し出すとその手の中には切符が『1枚』握られていた。
「あぁ、ご兄弟なのに切符が1枚しかないのですね。それですと降りられるのはお1人になりますが『どちらさまが』降りられますか?」
車掌の説明に、兄弟は私の手に切符を押し付けるように渡すとそのまま私の手をぎゅっと握らせた。
そして徐に私の服のポケットに手を入れるとすっと何かを取り出した。
それは黒い切符だった。
「それは…」
車掌の言葉を制止するように兄弟は口に指をあてた。
そして「先に行くね」と言うと車掌の指定する駅で降りてしまった。
私も一緒に降りようとしたが車掌に「貴方は次です」と止められた。
兄弟は電車を降りると一瞬私を見て微笑んだがすぐに踵を返し行ってしまった。
私は次の指定駅で降りた。
何故か独りが悲しくて泣きながら降りた。

「貴方にはね、本当は兄弟がいたのよ。元気な身体で産んであげられなかったけれども」
そう言う母に「うん、知ってるよ」と私は応えた。


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このストーリーに関するコメント

17/03/13 黒谷丹鵺

拝読いたしました。
怖いお話かなと思って読み進めば意外な展開で、切なく優しい物語に不意打ちされたような心持ちです。
ラストまで読んで、もう1度戻って読み返すと初回とは別なものが見て取れ、さすがだなぁと思いました。

17/03/13 石蕗亮

黒谷丹鵺さま
お読み頂きコメントありがとうござます。
様々な体験をひとつの物語にまとめてみましたが語り手の主人公の心情が読み手とリンクさせたかったので敢えてこのような表現で留めてみました。
感じ入っていただけるとうれしいです。
お褒め頂きありがとうございました。

17/03/13 海神

拝読致しました。
何処から来て何処へ行くのか。
答えも無いし、このお話がなんだったのかも描かれていない。でもきっとこんな話なんだろうと自分の中には納得の落ちがある作品で、不思議な満足感がありました。

17/03/13 まー

幻想的な雰囲気に、読後不思議な気分になってしまいました。
どういう電車なのかを分かった上で読むと、車掌の「お疲れ様でした」という言葉など味わい深くなりますね。

17/03/15 白虎

拝読しました。
死という言葉を一切使わずにいくつもの死を描いていて、切ないのにストンと腑に落ちる内容でした。
電車を人間には計り知り得ない大きな流れのようなものに例えているようで、その描き方が不思議で魅力的でした。

17/03/28 石蕗亮

海神さん
コメントありがとうございます。
異界や次元を越える舞台としての電車にいつも夢を馳せていたので今回はそんな想いをかたちにしてみました。
宮沢賢治の銀河鉄道の夜、松本零士の999、宇多田ヒカルのtraveling、鬼太郎の魔界列車や冥界送り、電気グループのポポなど子供の頃から最近まで様々なメディアに電車(汽車)は使われそれに触れていましたのでいつか自分も描きたいテーマでした。

17/03/28 石蕗亮

まーさま
コメントありがとうございます。
意味を描かないことで何度も読んでその度に新しい発見ができればという狙いで敢えて様々な説明を省いてみましたがうまく伝わればうれしいです。

17/03/28 石蕗亮

白虎さん
コメントありがとうございます。
生や死は言葉にしてしまうと重くなってしまうので、特に自然災害での大人数になると猶更。
なのでそれを迎える車掌のコメントで表してみましたがいかがでしたでしょうか。
肉体の生死の前後には魂の物語があると思います。
死後も待っている家族。産んでくれる家族。共に生きる兄弟。
そして例えそれらがいなくとも、次へ連れていってくれる電車と車掌が居る。
だから我々はこれからも人生という旅を「繰り返す」と私は思いたいです。

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