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瑠真さん

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完璧なる旅人

17/03/12 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 瑠真 閲覧数:220

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 時は光の速さで進むという、仮説があって、
 その速さを操ることで、誰もが「時の旅人」になり得るという、楽天的な科学者の考察があって、
 あとはそれを可能とする装置さえあったならと、願う人間もまた、幾らかいてーー

      ×        ×

 「お前は俺にとって、確かに良き友だった。でもな、」

 ーー?

 「ーーそれ以上に、決して越えられない『璧』だったんだ!!」

 外見上、あくまでシンプルな球体の中にまとめ込まれた、この上なく複雑怪奇なメカニズム。
 ステップに早変わりした入口扉へ片足を乗せ、後は乗り込むばかりというその時、彼は僕の方を振り返り、突然にそう言い放った。

 「いつだってそうだったーー眉目秀麗、スポーツ万能・・・女にはモテて、先生からは特別扱い。そして何より、『彼女』も又、そういうお前を愛したーー」

 『彼女』っていうのは、今でいう自分の嫁のこと。
 確かに、幾らか周りから言われもした。20代で学者の端くれとかいうのはまだしも、首尾よく初恋の女と結婚の上、もう子供までいるっていうパターンは、変わり者の多いこの業界じゃ、異例に順調だと。
 けど、今そう言って来たのはーー『物理学の鬼才』とさえ呼ばれる彼。
 学校時代の成績は勿論、研究の世界においてさえーーー30に満たないその年で、既に学会の第1線をひた走ってる彼。
 彼の科学者としての輝かしさからすれば、こんな自分の生き様など、いったい何だっていうのか?

 「いくら俺が努力しても、何をどれだけ研究しても、お前と同じものは手に入れられなかった。」

 本人の言い分は、あくまでこれ。
 かくて、
 科学者はその抜きん出た実行力と、細緻な技術力と、奇想天外な発想力とを駆使し、時を旅する装置を開発したーー何のために?
 いつだって彼の2番手に甘んじてきたヤツよりも、良い人生を送るために。

 「俺の人生は失敗だった。しかし、ついにこの日がーー過去をやり直し、お前が手にしてきたものを、俺のものにする時が来た。」

 棄てゼリフと共に消えていきかけた後姿は、ふともう1度歩みを止める。

 「お前には卑怯な真似するようだか、分かってくれ、友よ。お前に勝つにはこうするしかーー俺はついに、お前にはかなわなかった・・・では、さようなら、我が良き友。人生のどこかで、今とは別のカタチで会おうじゃないかーー」

 彼の搭乗に併せ、球体はますます光を強く帯び出した。辺り1面の眩しさーーしかし決して長くは続かなかったーー再び景色は、彼と装置だけが存在しない、それまで通り、真っ暗闇の公園の中。

 「・・・・。」

 ツッコミどころは、そりゃ全くなかった訳じゃないけど。
 何にせよ彼は、ここではないどこかへと旅立っていった。それはそれは、たいそう鮮やかにーー
 去り際の見栄えまで計算に入れた、計画性といい。
 ただ僕1人に見せるためだけの「遊び」みたいなギミックすら許容する、設計レベルの高さといい・・・さながら芸術的とさえ言える、そんな科学者としての実力こそ、結婚生活や育児の傍ら、自分が追い求めてたものっていう、認識だった筈が・・・?
 結局、失敗した人生のリカバーなんて、誰にもできないことらしい。丁度僕らの研究が、いつだって「やり直し」の繰り返しであるように・・・
 ーー冷静な分析も結構だが、
 自分の人生が狂うかも知れないって時に、いったい自分は、何ていう呑気さか!!
 ーーと、言うべきところみたいだけど、気にするには及ばない。
 何故?ーー例えば彼との圧倒的な能力差とか、こういう公園の静けさだとか、はたまたツッコミがどうとかいう他にも、れっきとした理由はある。
 所詮「2番手」なりに、僕には確信があったーー

 ーー『彼は再び、この場所に戻ってくる』と。

 難しい計算式は要らない。無論、その成立には前提条件も幾つかあるが。
 1つにはーーあまり疑うべくもないーー彼の装置が正確なこと。
 もう1つは、
 彼の「失敗の人生」が、それはそれで「完璧」だったなら。
 人生をやり直せるのは、その人生に、他の選択肢があればこそ。
 けどアイツは、いつだって真面目で努力家でーーとにかくスゲー奴なんだ。
 そんな風に一生懸命生きてきたヤツが、人生やり直したトコで、他に選択肢なんか、ある訳ないんだーー

 かくして、
 もう1度光に包まれた周囲、元あった場所に落ち着いた球体、開いた扉の向こうから、さっきと少しも変わらない彼が、改めて姿を現す。

 「・・・・?」

 決して失敗した訳じゃない。成功の結果、証明されただけだ。

 「やっぱ、さすがだよ。わが良き友♪」

 巻き戻ったかに見えた時間は、こういう1言から再び進み出す。

【END】


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