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ドーンヒルさん

趣味は、読書,旅行,写真です。 主に、純文学系の作品を書きます。 よろしくお願いします。

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将来の夢
座右の銘 苦しむこともまた才能の一つである               フョードル・ドストエフスキーより

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旅立ち介在人

17/03/12 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:0件 ドーンヒル 閲覧数:232

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 ネットサーフィンの末、隆司がたどり着いたのは、鈴木内科、という小さな、町のクリニックだった。こじんまりとした玄関、細い通路を抜けると、診察室、と書かれた部屋に突き当たった。恐る恐る、扉を開けると、初老の医師が、人懐っこい笑顔を浮かべて、隆司の方を向いていた。
 「的場隆司さん、ですね。院長の鈴木と申します」
 「お世話になります。あの、今日は、旅立ち介在人の件で……」
 鈴木は、隆司の会話を遮って、
 「コーヒーでもいかがですか」
 と言った。隆司は、思わず、えっ、と聞き返した。鈴木は、さっと立ち上がり、しばらくお待ちを、と言って、裏の方へ行った。そして、十秒後、コーヒーの入った紙コップを携えて、戻って来た。
 「ありがとうございます」
 隆司は、軽く頭を下げて、机に置かれたコップを取った。風味、味わい共に、いつも飲むインスタントと大差なかった。鈴木は、自分のコップに少しだけ口をつけ、暫くの間、隆司の様子を眺めていた。隆司が飲み終えたのを確認して、故郷のこと、学生時代のこと、職業のことなどについて、逐一、頷いたり、メモを取ったり、時には、笑顔を浮かべて、聞き続けた。隆司は、始め、この当たり障りもない人生を、真剣に聞き続ける鈴木の姿を予想していなかった。会話が進むうちに、父である安司との思い出が蘇り、言葉を紡ぐのが難しくなっていった。
 「本当に、迷惑ばかり、かけちまったんですよ」
 やっとの思いで、鈴木に告げた。
 隆司は、暫くの間、俯いていた。時折、腕で目のあたりを拭った。鈴木は、隆司の手を弱く握った。
 「さあ、気の済むまで、お泣きなさい」
 その言葉を聞いて、隆司は、顔を上げた。無数の涙が、今にも頬を駆け下りようとしていた。
 (ああ、父さんの温もりにそっくりだ。)
 隆司は、一言、ありがとうございますと告げて、泣き始めた。鈴木は、隆司が握った手を離さなかった。時折、大丈夫ですよ、と声をかけながら、嗚咽がおさまるのを待った。
 帰り際、隆司は、鈴木に、茶封筒を手渡した。数時間前に立ち込めていた暗雲は、すっかり晴れ渡り、輝かしい笑顔に屈託はなかった。
 「最期を、安らかな旅立ちを、よろしくお願いします」
 隆司は、深々と頭を下げた。
 「あなたの想いはきっと届きますよ」
 鈴木は、隆司の頬を撫でて、そう告げた。
 
 翌日、鈴木は、的場安司の入院している病院へ向かった。郊外にある、比較的大き目な総合病院の個室に、安司の姿があった。壁の至る所に、隆司と安司の二人が写った写真が貼られていた。鈴木は、ちっ、と舌打ちをした。
 「安司さん、お元気ですか」
 案の定、安司は、意識が朦朧としていて、言葉を発することが出来なかった。
 「今、楽にして差し上げますからね」
 鈴木は、鞄から、一本のシリンジを取り出し、点滴のチューブに装着した。シリンジ内に蓄えられた、通称、安らぎのハーブは、生理食塩水に混ざり、安司の体内に旅立っていった。
 「これが、最愛の息子さんの下した結論です」
 鈴木は、病室を後にした。昨日から必死に堪えていた笑いを我慢することは出来なかった。そして、これ以上ないほど、冷酷で、醜悪な表情を浮かべて、隆司から受け取った封筒を、破った。
 「医療費の削減が数億として、ギャラは、一千、てとこか」
 鈴木は、スマートフォンを取り出し、今回の成果をメモ書きした。途中、着信を知らせる振動に気付き、電話を繋いだ。
 「もしもし」
 鈴木は、最初に、隆司と話した調子のトーンで言った。
 「どうも、あの、ネット検索をしていたら、旅立ち介在人という、ページを見つけまして、その、少し相談したいことがありまして」
 「分かりました。明日、当院にお越しください。詳しく伺いましょう」
 会話は、数分ほど続いた。鈴木は、大方の算段を終え、安司の病室に向かった。
 「今回も楽勝だ」
 鈴木は言った。旅立ちを見送る鈴木の純粋な笑顔の元になるのは、次の依頼に対する報酬への満足であった。
 病室に戻ると、すぐさま、脈拍と、瞳孔、呼吸を確認した。
 「安らかにお眠りください」
 鈴木は、そう囁いた。部屋を出ようとしたときに、何かを踏みつける音がした。足元を確認すると、ガラスの縁、そして、裏返しになった一枚の写真が落ちていた。一度、椅子に座って、靴底にガラスがささっていないことを確認した。
 写真に写っていたのは、卒業式と書かれた看板の前で、にこやかに笑う隆司と安司の姿だった。ガラスの破片がところどころ刺さっていたが、上手いこと、光の反射を利用して、輝いて見えた。
 「全く、この親子は……」
 鈴木は、写真を拾い上げ、勢いよく、半分に破った。隆司の写った方を、安司の手に握らせた。もう少しだけ、安司の、表情を見ていたい、と思えた。
 


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