1. トップページ
  2. 外身と中身

日向 葵さん

「ひなた あおい」と申します。 小説を書きます。 よろしくどうぞ。 twitter@aoi_himata_21

性別
将来の夢 なれるものなら何でも。
座右の銘 God is in the details.

投稿済みの作品

2

外身と中身

17/03/12 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:2件 日向 葵 閲覧数:587

この作品を評価する

 こんな話を聞いたことはあるだろうか。
 『とある廃工場に行けば生まれ変われる』のだと云う。
 荒唐無稽な話ではあるが、今の私には聞き流せる話ではなかった。私は半ば逃避行のように夜毎、車を走らせては郊外の廃工場を訪ねて周っていた。



「君、入社して何年経つの?」
 上司の小言が槍のように胸突き刺さり、私という人間を内側からぐちゃぐちゃに崩していく。必死に頭を下げ、説教から逃れたい一心で謝罪の言葉を吐き続けるが、逃げたところで何かが変わることは無い。そんな事は十分に理解しているし、失態を挽回するよう努力すべきであるという一般論も知っている。しかし、私にそんな気概がある筈もなく、心中にドロドロとした想いを溜め込んで今日も家路に着く。
 独り身の狭いアパートへ入ると同時にベッドに倒れ込む。本来ならば泥のように眠りたいのだが、瞼を閉じれば私を否定する言葉と情景が頭の中で渦巻いて、何時まで経っても眠ることが出来ない。一頻り魘された後に、ついに耐えきれなくなって枕元の携帯電話へ手を伸ばす。無心で何かをしている間は、嫌な事を考えなくて済んだ。
 そんな時に目に留まったのがその噂である。「生まれ変わる」という事がどう云う事なのか分からなかったが、四面楚歌の上に、自分でさえ自分を追い詰める惨状から逃げ場を求めていたのだろう。気付けば車を走らせていた。



 その日は無性に帰りたくなくて、ついつい遠方まで赴いてしまった。名も知らぬ山中を無心で奔走する中で、酷く廃頽した工場が見えた。蔦が柵のように絡みつき、森と一体化したその風情に、私は導かれるように足を運ぶ。
 錆付いた鉄扉を開くと、金具が軋んで嫌な音を立てた。内部は腐敗してグズグズになっていた。カビと湿気の濁った空気に心がざわついて仕方がなかった。
 私はこの工場のように朽ちてゆくのだろうか。誰からも見捨てられて、崩れ落ちるのを耐えて、それでも生きて行くのだろうか。寒気と恐怖で身が竦んだ。
 そんな心の動揺を察するように、足元が揺れた。重い躯体を支える柱が折れて、崩れる。頭上から降り注ぐコンクリートの塊が私を押し潰し、激しい圧迫感が身を砕く。足裏で蟻を踏み潰すかのように、死を悟るのは一瞬であった。



 舞った土埃が霧散すると、工場は只の石塊と化した。私はその瓦礫の山の下に居る筈であった。
 しかし、当の私はその崩れ去った廃墟を眺めているのだった。これが死後なのだろうかと思い掌底で体中を確認するが、肉体の触感は確かで、頭が混乱する。訳も分からずに困惑する私の足元には赤黒い肉塊が転がっていた。
 
 ああ、生まれ変わるとはこういう事か。

 生まれ変わった私は生前の私と何一つ変わってはいなかったのだ。外身も中身も何もかも。私は「生まれ変わり」というものに一体何を求めていたのだろう。生まれ変わって、外身を取り換えたところで、何かが変わるというわけでも無いのだ。結局は自分次第なのである。

 私は魂まで抜け出る程の長い、溜息を吐いた。帰ろう。明日も仕事だ。

 明日からまた私の日常が始まる。

 その日常はゆっくりと朽ちるばかりか、意義のあるものになるか、決めるのは私である。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/03/17 霜月秋介

日向 葵さま、拝読しました。

主人公の心情に深く共感しました。つらい今の現実から逃れたい、不甲斐ない自分を変えたいと思ってる人は世の中にいっぱいいるでしょうね。

17/03/17 日向 葵

霜月秋介様

コメントありがとうございます。
辛い現状を変えるのは他者でも、環境でもなく、自分なのだということが言いたかったのですが、直接的過ぎたかなと反省するばかりです。これから筆力を高めていきたいと思います。ご精読ありがとうございました。

ログイン