1. トップページ
  2. 夕暮れの街で彼に会えたら

待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

5

夕暮れの街で彼に会えたら

17/03/12 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:8件 待井小雨 閲覧数:999

時空モノガタリからの選評

こちらは前作「夕暮れの街で彼女に会えたら」の続編ですね。もちろん本コンテストでは二千字という制限を設けているわけですから、連作としての評価ではなく単体の作品として評価したいと思います。こちらは口裂け女からの視点で描かれ、前作よりもその苦悩がにじみ出たものとなっていますね。彼女は「都市伝説」としての自らの存在価値を求める一方、そのような役割を忘れ人間と触れ合ってしまうなど、自分の「役割」に徹しきれない、どこか抜けた面も持っていて、そのことが彼女のキャラクターを立体的に見せていると思います。指摘されるとおり昨今マスクをしている人が増え、路地のような物理的な闇も減っているわけで、「都市伝説」たちにとってはやはり生きづらい世の中になってきているかもしれませんね。口裂け女が「都市伝説」をやめるのか気になるところですが、完全な明るさよりも、どこかに得体の知れない存在を求める人間の心理が変わらない限り、彼らのような存在が完全に消え失せることはないのでしょう。

時空モノガタリK

この作品を評価する

 非常に珍しい事に、自分に近いモノとすれ違った。
「あれ――人面犬?」
 不繊布のマスクのまま久しぶり、と笑いかける。
「口裂け女じゃねぇか」
 おっさん顔をした小汚い犬がしかめっ面でそう言った。

 ベンチに腰掛けて缶コーヒーにストローをさす。人面犬にも適当な器にコーヒーを注いであげた。
「ストローなんかで飲むのかよ」
「マスクを外さずに飲む方法がこれしかないんだもの。公園で一休みしている口裂け女なんておかしいじゃない」
 薄暗い帰り道に出遭ってしまうのが口裂け女だ。マスクを取るのは「私、綺麗?」と訊く時だけでなければいけない。私はそういう存在なのだもの。
 びちゃびちゃとコーヒーをあちこちにはねさせながら飲む人面犬にふふ、と笑う。
「やっぱりあなたってキモいわよね」
「うるせぇ。それが人面犬だ」
 毒づいてから、あ――と間抜けな声を発した。
「そういや最近、同じこと言われたな」
 ふへっ、と笑う。
「キモくて怖いのが俺だからな。人間に気味悪がられりゃ嬉しいもんだ」
「私はもうめっきり。最近は駄目ね」
 薄暗い道もすっかり減って、その上マスクをしている人が随分と増えた。顔を隠すと安心していられる心理があるのだと言う。花粉の時期は尚更で、すれ違う人が大きなマスクをしていたところで子供たちは何の恐怖も抱かない。心に恐怖の隙が無ければ、付け入る事もできやしない。
「それでもたまには襲うんだけどね」
 だからかろうじて口裂け女としての存在を保てている。
「それがとっても有り難いの。」
「それ、あいつに聞かせてやれりゃ良かったな」
 人面犬の言葉に「何の話?」と首を傾げる。
「どこの街だったかな、口裂け女に遭った事があるって奴の話を聞いてやったんだ。子供の頃に『ブス』って言ってお前を傷つけたって悩んでたぞ」
 ……それは何と、律儀というか真面目というか――。
「襲う前に口裂け女が遊んでくれたんだと。憶えてるか?」
 都市伝説なんかを遊びに誘ってくれた子供――。
「――ああ! 憶えているわ。そうよ私、なぜだかうっかり一緒に遊んでしまって」
 懐いてくれる子供って可愛いな、と思ったりしたのだ。途中で自分の存在意義を思い出し、人間と遊んで楽しくなってしまった事に戸惑いながら「私、綺麗?」と口裂け女の義務を果たしたのだ。
 ――ブース!
 蘇った声にちく、と胸が痛んだ。そういえばあの時も悲しかったような気がする。
「傷ついたのか」
「……そうみたい」
 綺麗と言ってほしかったわけではないはずだ。ただ、楽しい気持ちで共に過ごせたから、急に突き放されたようで寂しかったのだ。
 我儘だわ、と思う。あの子が「ブス」と言ってくれたおかげで私は私として在り続ける事ができたのだから、それで充分なはずなのに。……まぁ、綺麗と言ってくれても同じ事ではあるけれど。
「ずっと謝りたかったとさ」
「別にいいのにね」
 人面犬がぶえっくしょい、と汚いくしゃみをした。思うに、わざと汚く気味悪く振る舞っているのだ。そう在るのが「人面犬」だから。
 私はマスクを整えると、くるりと回ってみせた。
「ねぇ、私、綺麗?」
「……俺に訊いてどうすんだよ」
 呆れた声で返される。
「私は口裂け女なの。――でも、マスクをしている人間の中に混じってしまえばそんなの分からないでしょう? マスクをすればただの女だわ」
 紛れてしまえばきっと誰も気づかない。
「マスクを取って襲うのが口裂け女だ。口元を隠したままじゃ口裂け女は名乗れない」
 そうね……、と呟く。それが私という存在なのだものね。
「……私、もう行くわね。その人間の子、会えたらいいのだけど」
「そしたら謝罪を聞いてやれ。そんで襲えよ」
 もうすっかり大人になっちまってるがな、と言われた。
 その人間に会えたらいい。本当にそう思う。
 もしも会えたなら――私はまた「私、綺麗?」と訊くだろう。答えはどちらでも構わない。
 あの頃は都市伝説としての力が強かったから、子供一人くらい襲わなくても「何か」に見逃されていた。けれどもう、恐怖心の隙間にさえ入れなくなった私では、見逃してはもらえない。
 彼にブスと言われたら「ひどいなぁ」と苦笑しよう。綺麗だと言われたら「お世辞でしょ」なんて答えよう。
 そしてそのどちらであっても、私はもう、襲う事はしない。
 ごめんね人面犬、もう会えないかもしれない。別に仲がいいわけではなかったけれど、心の中で謝っておく。
 口裂け女で在る事から、都市伝説で在る事から卒業してしまおう。その切っ掛けを、ずっと私なんかの為に悔いてくれていたその人に託してもいいだろうか?
 もしも会えたら――会えたなら、だ。
 呪文のように口中で唱える。

 そうして揺らめいて降りたった夕暮れの街――道を歩く男の人の姿を、私は見つけた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/03/12 のあみっと二等兵

拝読させていただきました。
都市伝説の中で生きている?生きていく?存在にとっては、現代は生きにくく、ツラい世の中かも知れませんよね(笑)
絶対に遇いたくはないんですが、読んでるうちに「そんな寂しい事言わないで」とか思う自分がいました。
素敵な作品、ありがとうございました‼

17/03/12 霜月秋介

待井小雨さま、拝読しました。

確かに増えましたよね、マスクしてる女性(笑)道行く人皆が口裂け女ならぬ、「口避け女」のようです。
昔は暗かった夜道が今では、照明で昼のように明るい。口裂け女や人面犬などの都市伝説よりも、今では平然と人を騙す人間の方が恐ろしいのかもしれませんね。

17/03/13 待井小雨

のあみっと二等兵様

コメントありがとうございます。
ひと昔前の都市伝説たちは、きっと現代を生きづらいでしょうね。
口避け女と人面犬というシュールな絵面の話となりましたが、口避け女が都市伝説であることを諦めはじめてしまったがゆえに、なんだか寂しいラストとなってしまいました。
口避け女を励ましてくださる優しさに感謝致します!

17/03/13 待井小雨

霜月秋介様

コメントありがとうございます。この話を書くにあたり道行く人々のマスク率に注意してあるいてみたのですが、この時期は本当に多かったです(笑)
明るい道でマスクをしている女性とすれ違うなんて日常ですので、口避け女はやりづらくて仕方ありませんよね。
顔を隠しもせず、普通の顔をして騙す人間。それが一番怖いですね……。

17/03/16 猫春雨

前作と合わせて拝読しました。
都市伝説の二面性。
男と女の二面性。
わびしく切なく、でもどこか懐かしく。
夕闇の果てだけが知り得るであろう真なる結末はハッピーエンドであって欲しいですね。

17/03/18 待井小雨

猫春雨 様

コメントありがとうございます。
口避け女の側からの話と、子供だった「俺」側の話。お互いが相手の事をささやかに想うだけの話ではありますが、そこに何かしら感じていただけたなら幸いです。
夕闇の中で再会した時に彼らがハッピーエンドを迎えられるように願っていただけて、嬉しく思います。

17/04/01 光石七

拝読しました。
一昔前の都市伝説的存在って哀愁がありますね。今の社会は確かに生きづらいかもしれません。
アイデンティティと感情、もしかしたら人間よりも人間らしく懸命に生きているのではないかと思いました。
少年だった彼も口裂け女もお互いを思っているなら、心の交流は可能なはず。幸せな再会になってほしいです。
人面犬のキャラも味があっていいですね。
素敵なお話をありがとうございます!

17/04/03 待井小雨

光石七様
コメントありがとうございます。
自分が子供の頃でさえ、口避け女は古い都市伝説のイメージがありました。現代では忘れ去られ、消えかけの存在なのではないかな……と寂しさを抱かせてみました。
幸せな再会を願っていただき、ありがとうございます(^^)
人面犬は書いていて楽しいキャラだったので、味があると思っていただけて嬉しいです。

ログイン