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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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夕暮れの街で彼女に遭えたら

17/03/11 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:6件 待井小雨 閲覧数:613

時空モノガタリからの選評

夕暮れの静かな街の雰囲気の中、都市伝説として生きる者たちの葛藤が魅力的な作品ですね。「都市伝説」であるはずの口裂け女と人面犬を、一つの人格を持つモノとして描いたという点で、本コンテストではかなり異色でした。また、作品全体のやわらかな雰囲気とそれぞれのキャラクターが魅力的。特に人面犬の「キモい」キャラクターが良いですね。最後の段落の「人間の面をした犬ってだけだ」以下の会話から、自分の置かれた立場を受け入れる突き抜けた図太さと知恵のようなものが感じられます。彼の存在が、作品全体の印象が綺麗になりすぎるのを防ぎ、引き締めていると思います。「俺」が、口裂け女の繊細な心を感じ取り、一人の生きた存在として見ているのが良いですね。人間と「都市伝説」という垣根を超えた繋がりが感じられました。ラストのさりげない終わり方も作品の雰囲気と合っていていると思います。

時空モノガタリK

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 夕暮れの住宅街で一匹の犬とすれ違った。その瞬間、ずっと謝りたい人がいた事を思い出した。

 俺は口裂け女に「遭った」事がある。
 小学生の頃の事だった。夕日に染まる公園で一人、砂に絵を描いて過ごしていた。そこに、大きなマスクをした女性が近づいてきた。
「……ねえ」
 笑んだ瞳が綺麗に半月の形を作っていた。優しそうな人だ、なんて何の根拠もなく思った。だから一人きりで寂しかった事も手伝って、その人が何かを言う前に勢いよく声をかけていた。
「ねえ、遊んで!」
「えっ?」とその人はひどく戸惑った声を上げた。
腕に飛びついて「いいでしょ?」とお願いすると、困惑した様子で「……ええと、い、いいわ」と答えてくれた。マスクで隠れていたけれど、はにかんでいるようだった。
 砂の山を作ったり、ブランコに乗る背を押してくれたりした。声を上げて笑っていたから、その人も楽しんでくれているのが伝わった。
「お花、綺麗ね」
 花壇の花を撫でてその人は言った。そうだね、と横顔を見ていた時、(ああ、この人は口裂け女だ)と気付いてしまった。ずれたマスクから、目の近くに唇の端があるのが見えてしまった。
 俺の視線に気づき、その人は「あ……」と言う。やるべき事を思い出したように向き直ると、少し迷ったように視線を彷徨わせ、マスクの紐に指をかけた。
「……私、綺麗?」
 その瞬間、子供らしい考えなしの挑戦心が働いた。マスクを取るより早く、俺の口はこう口走っていたのだ。
「っ、ブース!」
 綺麗と答えてもブスと答えても襲われるのだと本で読んでいた。ならば即答してすぐさま逃げてしまえと考えたのだ。追いかけてきても「ポマード」と唱えてやればいい。どこかわくわくしながら逃げた後ろを振り返ると、口裂け女は花壇の前に佇んだままでいた。
 寂しそうな……傷ついた目をして、襲いかかる事もなく俺を見つめていた。

「あれは夢か何かだったんだと、俺の脳は処理をしたみたいで」
 子供の記憶は曖昧で、夢で見た事や想像した事が現実であるかのように錯覚する。だから逆に、口裂け女の事は「現実ではない」と処理されてしまった。
 けれどずっと、誰かに謝りたくて仕方ない気持ちが残っていた。夕暮れの帰り道、人気のない公園。そんなものを見かけると申し訳なさで胸が痛んだ。
「話、聞いてくれてありがとな」
 傍らの犬に礼を言う。記憶を呼び覚ましてくれた張本人――張本犬である、人面犬に。
 夕暮れの街で人面犬に遭遇した時、俺は思わずそいつの尻尾を掴んでいた。――都市伝説は存在していた! その事実が、俺の記憶を呼び覚ましてくれた。
『いてえな!』
『は、話を』
 俺の話を聞いてくれないか――と汚れた尻尾に縋り付き、話をして今に至るわけである。
「面白くもねえ話だ」
 太い眉を寄せ、そいつは流暢に人の言葉で言った。
「都市伝説仲間として、口裂け女がどうしているか知らないか?」
「んだよその仲間。語る奴がいれば存在はしてるだろうさ」
 脂ぎったおっさん顔で言う。
「……ブスだなんて思ってなかった。とりあえず即答して逃げてやれとしか考えてなくて」
 半月型の瞳が綺麗で、子供と遊んでくれる優しい人だとわかっていた。……なのに傷つけた。
「ブスでも綺麗でも、どっちか答えりゃそれでいいんだよ」
 さもつまらなさそうに、後ろ脚で耳を掻く。
「お前と仲良くなるなんて想定外だったんだろうさ。一緒に遊べば襲いづらくなる。だけどマスクを取って綺麗かどうか訊かなきゃ口裂け女でいられない」
 だからうっかり遊んでしまって、役目を思い出してマスクを外した。
「俺たちが俺たちで在る方法だ。アイデンティティーって言うのか」
「でも、きっと傷つけた」
「おかげで都市伝説としての存在が赦されるんだから、構うような事じゃねえ」
 割り切っている人面犬の言葉に、ため息を吐く。
「また会えると良いんだけど」
 ――もしもまた遭えたなら、口裂け女はやはり「私、綺麗?」と訊いてくるだろうか。懐かしさを抱えながら俺は「綺麗です」と答えよう。あの人は躊躇いながら「これでも?」と襲ってくるかもしれない。
 そうすれば彼女は口裂け女としての自己を保てる。死にたくはないから、「ポマード」と唱える事だけは許してほしいと思うけれども。

「そう言えば、人面犬はどういう存在なんだ」
「人間の面をした犬ってだけだ」
「それだけか」
「バリエーションはあるだろうがな」
「キモいとか可愛いとか言わなくていいのか?」
「言わなくていいし言っても襲いやしない。言うんなら聞くがな」
 女性をブス呼ばわりしてしまった事で長らく悔いていた俺は、しばし人面犬の顔を吟味し、熟考してこう言った。
「……やっぱ、キモいな」
 ふへっ、と人面犬は笑い声だけを残す。
 そうして落日と共に、消えていった。


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このストーリーに関するコメント

17/03/14 のあみっと二等兵

拝読させていただきました。
両方読むと、口裂け女の気持ちと、少年だった「彼」の気持ちが、やはり切ない物語ですね。
同じ人間同士だったら、男女として上手くいきそう…… (笑)なんて想像してしまいました。
素敵な物語、ありがとうございました。

17/03/15 待井小雨

のあみっと二等兵様

コメントありがとうございます。
もともとはこちらの話だけでもう一作書く予定はなかったのですが、こちらを書き終えてから口避け女が何やら悩む姿が浮かびまして、このような形になりました。
二人が出会えたとしても、それはたぶんこちらの主人公が願うものにはならないんだろうな……と考えております。残念なことに口避け女の方は諦めてしまっていますので。
同じ人間としてこの世に生まれたらうまくいくこともあったかもしれないな、とのあみっと様のコメントを読んで思いました。

17/04/01 光石七

拝読しました。
口裂け女との束の間の交流と傷つける言葉を言ってしまった後悔を人面犬に話す。
ユニークな発想と繊細な文章で、ノスタルジックで味のあるお話に仕上がっており、心に沁みるものがありました。
素敵なお話をありがとうございます!

17/04/03 待井小雨

光石七様
コメントありがとうございます。
人面犬と青年が口避け女の話をする、という絵面を想像するとだいぶシュールな物語ですが、楽しんでいただけましたでしょうか。そうならばとても嬉しいです。
お読みいただきありがとうございました(^^)

17/04/12 霜月秋介

待井小雨さま、拝読しました。

私は先に口裂け女視点の方から読んでしまったのですが、それでも違和感なく読めました。こういう口裂け女だったら、私も会ってみたいです。襲われるのはゴメンですが(笑)

17/04/12 待井小雨

霜月秋介 様
コメントありがとうございます。
口避け女のキャラクターは思っていたよりも可愛くなってしまったというか、「これで都市伝説を名乗らせてよいものだろうか?」といった感じになってしまいました。
襲うとしてもきっと形だけなので大丈夫です、多分(笑)

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