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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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失敗は成功のママ

17/03/11 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:390

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 風の向きを決めるのは僕じゃないとまず断っておいてからこのお話を語る。
 命のろうそくに向かい風が吹いていたことに気が付くのは、起こってしまってからなので、僕のせいじゃない。

 ユウヤにとっての失敗はゲームのスタート。ママ髭危機一髪のスタート。
 ママのドッカーン、大爆発でいつもユウヤの失敗は成功になる。
 七歳四か月前のおねしょも、本当の理由は恐ろしい夢を見たせいでトイレに行けなくなったからだったけど、それではママに同情されてしまってドッカーンしないから、寒くてお布団出たくなかったと嘘を言った。思った通りママは、寒かろうが暑かろうがトイレぐらい行ける子になんなさい!って、ドッカーン。成功。
 七歳と半年、幼馴染のクミちゃんにもらったバレンタインのチョコを食べて、まいうーのイントネーションでまずいーって言って泣かせた時も、本当は美味しかったんだけど、それを言うとママはドッカンしないから、ユウヤ、ホントは美味しかったのよね?って言われても、いや、ホントに不味いよって言った。成功。
 八歳と数か月、隣クラスの男子たちと空き地の端と端。固い粘土質の土をぎゅっと固めたものを投げ合う戦争中、面倒だし、どうせ遠すぎて当たらないしと、石を投げてキョウタ君を号泣させた時も。あの時は本当に当てるつもりなかったけど、ユウヤの失敗はママの涙交じりの怒号で成功に変わった。夜、お見舞いにレディーボーデンのバニラとイチゴ持って謝りに行った時に、一個はうちで食べたいって言ってまたママをドッカンさせたのもユウヤのママ髭危機一髪ゲームのひとつだし。
 ユウヤは失敗を多分、誰よりも怖がっていたのです。だからその失敗をゲームにして成功させることで、怖くないことにしていたんです。
 
 ある日の夜のこと。
 ユウヤは「心臓が変だ」と思いました。
 走ってないのに、とっても速い。速くて、時々リズムがずれるし、ずれるたびにしゃっくりみたいのが出る。なんか怖い感じ。ママに言うと、ママはユウヤの胸に手を当て、耳を当てた。いつものことだけど、ママの手が痛い部分に当たると、痛みや、怖さの角が取れていく。でもその日は、角の丸い怖さがでっかく残りました。
 呼ばれた救急車。ママは近所迷惑になるからサイレンは切って欲しいと電話で言いましたが、うるさいサイレンはご近所さんを呼び寄せてしまいました。ユウヤはストレッチャーの上で速い速い心臓の音になるべく合わせないように知らんふり。
 落してしまったお化粧のままのママは、ユウヤの手を痛いほどに握って、「大丈夫、大丈夫」を繰り返すだけ。

 入院二日目。
 ユウヤはすっかり元気でした。心臓のスピードも落ち着いて普段通りだったし、体はどこも痛くありませんでした。なのに、ママの様子がおかしいので、ユウヤは不安になってしまいます。
 学校行きたい、と言っても、まだ少しね、と、短い言葉で返されることも、ユウヤの不安を大きくします。
 僕はもしかしたら、心臓の重たい病気なんだろうか、このままずっと病院から出られないんだろうか。またあの日みたいに、心臓が僕を置いてきぼりに走るんだろうか。
 ユウヤは思いました。ママをドッカンさせよう。そうだ。いつものことだ。僕の失敗は、ママのドッカーンで成功になるんだから。
 病院の地下の喫茶店で、ユウヤはピラフとミックスジュース、それにアイスクリームを注文しました。ウェイトレスに、アイスはピラフを食べ終わったら持って来ますから、呼んでくださいと言われたけど、ううん、ピラフと一緒に持ってきて、と、わがままを言ってみます。チラっとママを見ます。ママは、すいません、一緒にお願いしますと、ドッカンの気配もありません。
 到着したアイスクリームに添えられたウエハースを、乾いたベロにくっつけて「ほあほあ」と、ぶらりんぶらりん、ママに見せつけても、ママは、くっついちゃったねって笑うだけ。
 ミックスジュースの氷を、ストローでかき回すのはセーフって知ってるけど、指で回すのはどう?ママ、ねぇ、ママ、これで最後だからね。
 ユウヤは不安と恐怖に、押しつぶされそうで、ママに助けて欲しくて、とうとう泣きそうになりながら、手づかみでピラフを食べて見せます。喫茶店のテレビは徹子さんがゲストの女優さんと楽しそうに笑っています。ユウヤは、ぼんやり、あの女優さんの名前をママに教えて欲しいと頭の隅で思いました。けど、ママの顔を見て、何も言えずに。
「腕白で困ります」
 そう言ってホラとおしぼりで手を拭かれて、とうとう、失敗のままに終わったゲームに負けて、ユウヤはグスグスと泣いてしまいました。
 でもママは、泣きません。あの夜からユウヤの前では泣かないと決めたのです。手を拭いてやりながら、
「大丈夫、大丈夫」と、繰り返すだけ。
  

 
 


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