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まーさん

物語作りの基礎としても、ショートショートで腕を磨くべく登録させていただきました。 読んだ作品にはなるべくコメントするようにしているので、ウザいかもしれませんがあしからず(笑)。 よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢 ラノベ作家、書籍アニメ化
座右の銘 なせば大抵なんとかなる

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破滅的失敗

17/03/10 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 まー 閲覧数:223

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「いいんですよ。気にしないでください」
 何度も頭を下げながら謝罪する店員に、青年は朗らかな笑顔で応じた。
 つまずいた拍子に、注文されたコーヒーを青年のズボンにかけてしまった店員はどこかあたふたしている。一見、青年の風貌に柄の悪さを感じるからだろう。
「い、いえ。本当に申し訳ありません。火傷とかなさってないですか」
「大丈夫大丈夫。なんともないですよ」
 実際はコーヒーがかかった部分がヒリヒリしていたのだが、青年がクレームをつけることはなかった。喫茶店を出るまで終始にこやかに接した。
 家へ帰る道すがら、横断歩道を渡っていると一台の軽トラックが信号を無視して青年のもとに突進してきた。三、四メートルほど吹っ飛ばされ、軽く気を失いかけたものの青年の命に別状はなかった。
 骨は折れていないようだし大丈夫だろうと思い、青年はよろけながらも立ち上がった。トラックから出てきた運転手が慌てて走り寄ってくる。急いで救急車を呼ぼうとする運転手を制すると、青年は自分が何ともないことを示すためにその場で何回か軽くジャンプをしてみせた。むしろ車の損傷のほうが激しいのを目にし、青年は運転手に平謝りした。いちゃもんをつけてきそうな外見とは裏腹に、青年の愛想のよさに運転手は奇妙なものを感じた。ぴんぴんしている青年を前にして安堵したのか、もしくは面倒事にならずにすみそうだと思ったのか、運転手はその場を去る青年を引き留めることなく見送った。
 むち打ちの痛みを感じながらも歩を進める青年だったが、歩道を進んでいると黒い帽子とサングラスにマスクを装着した男が突然ぶつかってきた。男は何事もなかったかのように去っていく。遅れて青年の腹部にはこれまで感じたことのないような激痛が走った。見ると腹部には深々とナイフが刺さっていた。
 その場に倒れこみながらも、青年はにこやかな笑みを浮かべた。別の人が刺されなくて良かったと。
 目が覚めると青年は病院のベッドの上にいた。車にぶつかった上、あんなに深く刺されたのに一命をとりとめたのかと思うと、自分の身体が頑丈なことを誇らしく感じた。
 医師の説明では、手術をした際も奇跡的に臓器は傷ついていなかったという。
 手術で腹部を見たのならと、青年は気になることを質問した。
「先生……実は俺、腹に末期がんを抱えているんですけど、それはどうなってました?」
 医師は一瞬ぽかんとしたが、笑いながら答えた。
「末期がんだなんて冗談でしょう。実に綺麗な臓器でしたよ。まあ外からみただけじゃ何とも言えませんし、画像診断してみますか」
 医師の言葉に深く頷き、青年はレントゲンやCTなどを受けた。
 結果、青年の身体は医師が言った通り健康そのものだった。青年は歓喜した。
 末期がんとの診断がくだされてからというもの、ガンに関する本を読み漁っていた青年だったが、様々なことを試したかいがあったというものだ。中でも、イライラしないようにするという点は強く意識しながら過ごしてきた。性格は元々短気だったため、それは容易ならざるものがあったが、だからこそ効果は絶大に違いないと青年は確信していた。そして自分の感情をコントロールすることに成功するたびに、青年は驚くほど気長な性格になっていったのである。
 とはいえ、がんが完治していると知るや否や、青年の心持ちは徐々に大きくなっていった。湯を入れて三分のインスタントラーメンを、湯を入れて一分後に食べてしまうようになった頃には、性格は昔のものに戻っていた。
 そしてつい最近のことを回想した際、青年のはらわたは煮えくり返った。
「……ちくしょう! 何だこの前のあいつら。コーヒーを引っかけるわ車で吹っ飛ばすわ。というか俺を刺しやがった奴め。ただじゃおかんぞ。見つけ出してぶっ殺してやる!」
 青年はやり場のない怒りを抱えながら部屋の中をぐるぐると歩き回った。そんな日が何日も続いた。
 それから少しして、青年は再び病院での診察を受けに行った。言葉遣いもすっかり乱暴なものに戻っていた青年は、すごむようにして医師に詰め寄った。
「で、どうだったよ。綺麗なもんだろ俺の身体。頑丈さだけには自信があるんだよ」
 だが医師は重々しい口調で青年に告げた。
「手のつけようがないほど全身がガンに侵されています。残念ながら……もってあと一ヶ月ほどですね」

   了


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