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高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

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エレベーターガール

12/11/12 コンテスト(テーマ):第十七回 時空モノガタリ文学賞【 エレベーター 】 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1653

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「6階でよろしかったですか?」
若い女の声。
確かに職場はこのビルの6階だ。だから僕より先に6階のボタンを押してくれたのは助かる。けれど全然よろしくない。だって今エレベーターに乗っている人間は僕一人の筈なのだ。
「え、幽霊?」
「エレベーターガールです! ……幽霊兼、ですけど」
残念ながら幽霊だというのは嫌でも信じざるを得なかった。事実やり取りを続けている間、エレベーターは一階から動いていない。
……閉じ込められた?
「で、6階でよろしかったですか?」
「あ、はい」
「上へ参ります」
予想に反し、エレベーターは6階まで昇って素直にその口を開いた。
「いってらっしゃいませ」
これが僕と彼女との出会いだった。

新入社員は誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰れと上司に言われた。
それが皆の信頼に繋がるとか言われたが、結局は体育会系気質の産んだ悪しき因習な気もしてならない。
まあ、思うだけで口には出さないが。
そして今日も一番最後まで残ってしまった僕は、カードキーをスキャナへ通し、独りエレベーターを待った。
……毎日毎日、ここに書きたくない様な事が多い。
果たして本当に自分は必要なのか。社会の歯車がどう、とか抜かすケツの青い子供が多いけど、その歯車になるのだって楽じゃない。ミス、そして産まれるロス。この二つに挟まれながら、色々な物を磨り減らしていく。
かごの中には誰も居ない。僕は一日の忙しさに数日前あった事もすっかり忘れて、文字通り飛び乗った。
「あのー、乗る時はもう少し優しく……」
「うわ! やっぱ何か居る!」
「だからエレベーターガールですってば。あ、一階で?」
「え、あ、はい」
二度も聞いてしまったら、開き直るしかない。むしろ幽霊と会話出来るなんて貴重か、と呑気に考え出した僕は、何か話しかけてみる事にした。
「……えーと、いつ頃からここに?」
「20年ちょっとになりますねー」
「に、20年!? ……乗ってる人に結構、話しかけたりしてるんですか」
「いえ。いつもお独りでエレベーターに乗ってますよね。だから話しかけ易くって。ちょっとエレベーターガールでもやってみようかな、なーんて」
20年か。と、僕はバブリーな彼女の姿を想像する。
「生前はエレベーターガールだった、と?」
「や。ただ憧れてただけで、ここのビルでOLしてました。可愛い制服着て、上に参りまぁす、なんて。そんな事思ってたら、何かここのエレベーターに。これって地縛霊?」
自分で自分を冷静にカテゴライズする幽霊。そんなおかしさが、少し僕のツボにはまってしまった。
「お兄さんこそ、よくエレベーターガールに話しかけたりするんですか?」
「話しかけるも何も、エレベーターガールってもう居ないよ」
僕は言ってしまってからハッと口を押えた。ロス。僕らの畏れるその言葉が、彼女の憧れをとっくの昔に奪い去っていたのだ。
「……ま、今景気悪そうですしね。話聞いてると」
……20年前よりは、確実に。
「でもいいんじゃないかな。そんな時代だからこそ。僕は多分毎日早く来て遅く帰るから。専属で」
「本当ですか!?」
そのままあれこれと取り留めのない会話を続けている内に、僕はある事に気が付いた。
「つか、6階から動いてないんですけど」
あっ、と彼女は慌ててエレベーターを動かし始めた。とんだエレベーターガールだなと、僕は遂に笑ってしまった。

それから毎日、僕は少なくとも朝は一番に出社する様になった。
動機はやや不純だったが、時間があるとやる事を思い付くもので、デスクの整理から観葉植物の水やりまで何でもやった。そして次第に、評価され始めた。
「やったじゃないですか!」と喜んでくれる人も居た。
ただ一つの誤算は、転勤だ。仕事と勤務態度を評価され、三年目にして東京の本社へと引き抜かれる事になってしまったのだ。
周りは祝福してくれたが、個人的には複雑だった。
最終日に送別会へと出かける直前、僕は忘れ物があるからとオフィスへ戻り、エレベーターに独りで乗った。
「一階ですよね?」
「……いや、君と少し話がしたい」
僕は『開』のボタンを押し続けた。
「ごめん」
「何を言ってるんですか。栄転、おめでとうございます」
「でも、君は……」
「会社が変わる訳じゃないんですから。また来る事もあるでしょうに。さ、皆さん待ってますよ。行った行った」
その一言でドアは勝手に閉まり、エレベーターが動き出す。
「随分乱暴だな」
「湿っぽいの、嫌なんです。昔からなんですけど」
「そうか」
一階に降り、僕は開いたままのエレベーターへ振り返った。彼女が手を振っているのを見た気がした。

「何か出世の秘訣とかないんですか?」
三次会辺りで、一番信頼出来る後輩にそんなような事を訊かれた。僕は笑って答えた。
「誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰る事かな」


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