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まーさん

物語作りの基礎としても、ショートショートで腕を磨くべく登録させていただきました。 読んだ作品にはなるべくコメントするようにしているので、ウザいかもしれませんがあしからず(笑)。 よろしくお願いします。

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将来の夢 ラノベ作家、書籍アニメ化
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社会的成功者の転落

17/03/10 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 まー 閲覧数:211

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 名門私立K大学を首席で卒業し、大手証券会社に勤めて三年になる高峰望は、上昇志向が強い性格の持ち主だ。
 そう言えば聞こえはいいのかもしれないが、その実、望は他者と自分を比べ優越感に浸る傾向が極端に高かった。毎日書店に行っては自己啓発本を片っ端から読破し、それを実践していく。そうすることで自尊心は更に肥大し病的レベルにまでなっていた。
 そんなある日、仕事帰りにいつものように書店に立ち寄った望は興味深いタイトルの書籍を目にした。『全てを掴むために全てを捨てろ!』と黒いカバーに行書体の赤い文字で書かれている。ベストセラーになった『デキル男は毎日筋トレ』や『超次元引き寄せ術』を差し置いて山ほど平積みにされていた。著者略歴が異様に長い、世界的にも有名な博士が書いた新刊本だ。タイトルからして断捨離関連にも思えるが、中身が気になった望はさっそく手に取ってパラパラと流し読みした。
 と、望にとっては納得しがたい副見出しが目に飛び込んできた。
〔その75−優越感を捨てろ 優越感に浸りがちな人は根本の知能指数が極端に低くなり先見性を失う〕
「待て待て。確かに私は少々自尊心が強いかもしれん。だがIQは極めて高いぞ。社会的に成功した人間が他者を見下して何が悪い」
 そう愚痴をこぼしながら読み進めていく望だったが、論文や統計の豊富な資料をひきあいに妙に説得力がある内容だったため、最終的には深く頷きながら同意せざるを得なかった。
「いいだろう……優越感を捨てて更なる高みに立ってやる」
 そう呟く望の瞳は異様なほどギラギラしたものになっていた。
 意気揚々と書店から出て帰り道を歩いていると望の前に一人の老人が立ち塞がった。ボロボロの洋服を着、何年も入浴してなさそうな汚れた肌をしている。
 思わず眉をひそめる望だったが、ついさっき読んだ本にいかなる相手であれ敬意を抱くことの重要性が書かれてあったことを思い出し、慌てて穏やかな表情をつくった。
「どうしましたか、おじいさん。何かお困りですか」
 最大限敬意を払った対応だろうと思う望だったが、老人が発した次の言葉には唖然とせざるをえなかった。
「青年や。諭吉さんを恵んでくださらんかね」
「え?」
「諭吉さんといえば一万円札のことに決まっておるじゃろ。一枚だけでええんじゃ。頼む、一枚だけ恵んでくだされ」
 ぶしつけに万札を所望してくる意味不明なホームレスに苛立ちを覚えた望は、優越感を捨てることや敬意云々などを瞬く間に失念した。
「じいさん、あんた自分の立場を考えてものを言ってくれよ。金が惜しくて言ってるんじゃないんだ。私はあんたと違って有り余るほど金を持ってるからな。だがいきなり図々しすぎるだろ。要は社会最底辺のゴミくずはゴミくずらしく肩身を狭くして生きろってことだよ。ったくとんだ失礼千万なじいさんだ」
 そう言い放つと望は老人を突き飛ばし歩き去ろうとした。後方では老人が懲りることなく別の人に同じ文言を繰り返している。
「諭吉さんくださらんかね。一枚だけでええんじゃ。頼む、一枚だけくだされ」
「あ、はい。どうぞ……」
 後ろから聞こえてきたそのやり取りに、望は思わずぐるりと身体を回転させて振り返った。見ると冴えない中年の男がボロボロの財布から一万円札を出し老人に渡している。次の瞬間、どこからともなくテレビカメラのクルーがぞろぞろと現れて男のもとに詰め寄った。
「もしもホームレスが一万円札を要求してきたらあげる? あげない? で観察していました。一万円札を渡した方には番組側から賞金一千万円を進呈させていただきます!」
 マイクをもったキャスターが妙なテンションの高さでそんなことを言っている。男は信じられないような顔をしながらも、一千万の額が書かれた看板を持たされ嬉しそうにした。
 望はふらふらした歩みで男のもとに行き尋ねた。
「あ、あんたなんでこんな失礼なホームレスに万札が渡せるんだ。頭おかしいのか。そうか……さては大富豪だな」
 そんな望をテレビカメラのクルー達はどこか冷ややかな視線で眺めた。心の冷たいあんたは失敗したんだよといった、どこか差別的な眼差しを含んでいる。
 男は恥ずかしそうに頭をかきながら望に言った。
「いやあ、大富豪なんてとんでもない。今日食べていくのさえかつかつの状態でしたよ。あの一万円札は家にあるものを全て売り払ってできたお金だったんです。いずれ私も家を持たない方たちと同じ暮らしになるんだなと思うと、目の前にいる方が何だか大先輩のように見えちゃいましてね。思わず渡してました」
 それを聞いた望は呆然となり、その場に膝をついて呻くように声を漏らした。
「そんな……信じられない……」

 それから暫くして、望が勤める証券会社は経営が困難になり瞬く間に倒産した。

   了


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