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かわ珠さん

自分の好きな作家さんの言葉のチョイス、並べ方、区切り方、リズム、テンポに少しでも近付けるような文章が書けるようになりたいです。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 愛は時空を超える

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あと2ミリ キミ/あなた に届かなくて

17/03/10 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 かわ珠 閲覧数:257

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僕/
 右手の小指の端がチリチリとむず痒くて暖かい。
 僕のこの右手の小指のすぐ横、2ミリほど隙間をあけた隣には、クラスメイトの森笠さんの左手がある。
 白くて細い、華奢な手。
 僕は今日も、この彼女の左手に触れられなくて、その勇気を出せなくて、溜め息を吐く。
 彼女を好きになった瞬間は鮮明に覚えている。
 あれは雨上がりの校庭だった。
 コンクリートの濡れた匂いに頭痛を覚えながら、部活の準備をしようと部室に行こうとしたときに、見つけてしまったのだ。
 虹の下で涙を流して佇む彼女を。
 その姿があまりに綺麗で、まるで絵画のようで、僕は一瞬で恋に落ちた。
 ああ、こんなにも美しいものが、こんなにも身近にあったのか、と。
 その時、彼女が涙を流していた理由は後で知った。ケガで部活の最後の試合のメンバーから外れたのが悔しくて、あそこで泣いていたのだ。
「まさか見られてたなんてね、周りには誰もいなかったと思ったんだけど」
 と、彼女はおどけて言った。その笑顔を見て、僕は更に彼女を好きになった。
 それからしばらくして、彼女がお菓子作りにハマったから、味見してほしいと頼まれた。それは、僕にとっては願ってもない提案だった。好きな人と二人で出会えて、しかのその人の作るお菓子が食べられるだなんて、これ以上の幸福は無いじゃないか。
 こうして彼女の隣に座ってお菓子を食べるのは今日で何回目になるだろう。
 今日こそは彼女に告白しよう、と思いながら何も言えずに夕暮れを迎えるのは何回目になるだろう。
 結局言えずに、今日もそろそろ空が橙色に染まってきた。
 あとほんの2ミリ手をずらせば、彼女に触れられるのに。

 意を決してその手に触れてみる。
 僕よりも少し冷たくて、柔らかい手。触れたその瞬間にその手がピクリと跳ねたものの、でも、離れない。今度は思い  切ってその手を握ってみる。すると彼女の手にも少し力がこもるのがわかる。
 なんだ、やってみれば簡単なことじゃないか。
 彼女の顔を見てみる。その顔は、耳が赤く、少し微笑んでいる。
 その耳元に、好きだよ、と囁く。

……なんて、妄想ならいくらでも上手くいくのに。

   *   *   *

/私
 左手の小指の端がチリチリとむず痒くて暖かい。
 私のこの左手の小指のすぐ横、2ミリほど隙間をあけた隣には、クラスメイトの水樹くんの右手がある。
 厚みがあって、少し血管の浮いた力強い手。
 私は今日も、この彼の右手に触れられなくて、その勇気を出せなくて、溜め息を吐く。
 彼を好きになった瞬間は鮮明に覚えている。
「どうして泣いていたの?」
 と、彼は訊ねてきた。
 まさか見られていただなんて思ってなくて、驚いたけれども、見られていたのなら隠しても仕方がない、と正直に話したのだ。
「そっか」
 とそう言って、彼はそれ以上何も言わなかった。
 慰めの言葉も励ましの言葉もなく、ただそれだけ。それが、あの時の私にとっては一番優しい言葉だった。
 きっと『残念だったね、もっといいことがあるさ、泣かなくていいよ、元気出して』なんて言われていたら、ひねくれ者の私はもっと不貞腐れてしまっただろう。
 それ以来、彼のことが気になって仕方がなかった。もっと近付きたくて、お菓子作りを始めたから、味見してよ、なんて理由まで作って会うようになった。
……でも、それ以上は何もできない。
 今日こそはその手に触れよう、今日こそは私の気持ちを伝えよう、と思ってここに来るけれども、結局何も言えずに今日も日が暮れる。
 あとほんの2ミリ手をずらせば、彼に触れられるのに。

 勇気を振り絞って、その手にそっと触れてみる。
 私よりも少し熱くて、どっしりとした手。彼は、何も言わずに私の手を握り返してくれる。
 ああ、今なら言える。
 彼の顔を見て、そっと囁く。
 好きです、と。

……なんて、妄想ならいくらでも上手くいくのに。

   *   *   *

僕/私
 このたった2ミリの距離があまりにも大きくて、泣いてしまいそうになる。
 彼女/彼 はこの距離を意識しているのだろうか。
 わからない。
 わかっているのは、今日も気持ちを伝えることに失敗したということだけ。
 明日こそは、と昨日にも思ったことを今日も思いながら、 僕/私 はまた明日、と帰路に就く。
 キミ/あなた には今日も届かない。


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