1. トップページ
  2. 白線渡り

ちりぬるをさん

これからも精進していきます。 コメントなどいただければとても励みになります! よろしくお願いします。 Twitter @1682hoheto8D ブログ chirinuruwo8d.hatenablog.com

性別 男性
将来の夢 小説で食べていければそれが最高です。
座右の銘 春風秋雨

投稿済みの作品

1

白線渡り

17/03/09 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:2件 ちりぬるを 閲覧数:227

この作品を評価する

 二時間以上前に起きてはいたが、布団の中から出れずにずっと携帯で小説を読んでいた。我慢していた空腹が限界に達し、ようやく起き上がったのは正午をとっくに回った頃だ。寝間着にしているスウェットの上からダウンを羽織る。ポケットに手を突っ込むとちょうど弁当を買えるくらいの小銭が入っていたのでそのまま家を出ることにした。
 アパートを出てすぐのところにコンビニはあったのだが、僕は歩いて十五分くらいの別のコンビニへ向かう。そっちのコンビニには二ヶ月前からバイトを始めた可愛い女子高生がいたからだ。今日いるかは分からないが、日曜日の暇な、恋人のいない大学生を歩かせるには十分な動機だった。天気のわりに肌寒く、少し小走りになる。

 コンビニのガラスに映った自分の姿を見て寝癖がついていることに気付いた。手ぐしで直そうとするがぴょんと立った髪は頑固にその形を保ち続ける。家を出る前に直してくれば良かったと後悔しながらも仕方なく自動ドアをくぐった。弁当のコーナーに向かいながらレジをちらっと見るとあの子がいた。僕は少し奮発して、いや、少し見栄を張って高い弁当を手に取りレジへ持って行った。
「温めますか?」
 と言う彼女と目が合う。「お願いします」と言って横にずれた後、何か話しかけようと話題を探した。「今日は良い天気ですね」「その名札の『イスルギ』ってどういう漢字書くんですか?」思い巡らしながらチラチラと彼女を見ているとまた目が合った。
「寝癖ついてますよ」彼女が僕の頭を指差す。
「ごめんなさい、寝起きなんです」僕は慌ててはねた髪を押さえた。
「なんで謝るんですか? ウケる」
 あれ? 僕スマイルとか注文しましたっけ? とレシートを確認しそうになるくらいの笑顔で彼女は言った。何か会話を続けなくては、と思っていると電子レンジのチーンという音が無情にも鳴ってしまう。僕は名残惜しみながら、寝癖を押さえつつ弁当を受け取り外へ出た。「またお待ちしています」という彼女の声を背中に聞きながら。

 気になる子にあんな風に笑いかけられたら思わず足取りが軽くなるのは恋人のいない大学生なら当然だ。僕は白線の上をスキップしながら帰路についた。
 ふと前を歩く白いダッフルコートの女性も同じように白線の上を両手を広げてバランスを取りながら歩いている事に気付いた。途切れた所は大きくジャンプする熱の入れようだ。浮かれ気分の僕は深く考えずにそれに続いた。
 突然彼女が振り返ったのは少し歩いたクリーニング屋の前だった。白線の上で向かい合う形になった僕達はとりあえず会釈を交わす。
「君も踏み外したら死ぬ呪いがかかっているの?」
 僕と同い年くらいだろうか、整った顔が台無しになるような電波な一言が彼女の口から発せられた。
「……いや、違いま……」
 僕が言い終わる前に彼女は回れ右をして歩き出した。「関わらない方がいい」と僕の全細胞が告げていたのに、どうしてか心は『好奇心』という爆弾でその忠告を粉々に打ち砕く。僕は数メートル先で白線を塞ぐ路上駐車の車を前に彼女がどう振る舞うのか、どうしても見たくなったのだ。
 白いワゴン者の前で当然彼女は立ち止まり、まるで僕が後ろをついてきているのが当然かのように振り返った。
「一緒に待とうか」
「待つ?」
「これが退くまで」彼女が車を指差す。
「なぜ僕も?」
「お腹空いたから」彼女が僕の持つコンビニの袋を指差す。
「いやいや、それはおかしいですよ」正確には「それもおかしい」だった。
「そもそもなんでそこまでするんですか?」
「踏み外したら死ぬから……だから失敗は許されないの」そう言いながら彼女はコートのフードを被った。
 僕はあなたの後ろを歩いていたことが失敗でしたよ。そんな皮肉を言おうとした時、自転車で僕達の横を通り過ぎるコンビニの子と目が合った。一度振り返ったその子の表情は「へえ、なるほどね」という誤解に満ちたものに見えた。やらかした、と思い僕は顔をしかめる。
「あなたのせいで僕は違うものを踏み外しちゃったじゃないですか!」
 僕の八つ当たりを彼女は涼しい顔で受け止め、僕と自転車の去って行った方向を交互に見ながら「へえ、なるほどね」とフードを取った。
「一緒に待ってくれたら、私がなんとかしてやろう」
 なぜか自信満々、且つ上から目線の彼女に怪訝な顔をしていると彼女は続けた。
「心配するな、私の名字は『イスルギ』だから」
 僕は少し考えて、「へえ、なるほど」と呟く。
「ひとつ聞いてもいいですか?」
「構わんよ」
「イスルギってどういう漢字書くんですか?」
 この後僕は車の持ち主の戻りを実に三時間、白線の上で彼女と待った。日曜日の暇な、恋人のいない大学生なら当然だ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/03/09 まー

(女子高生の母ちゃんだろうか……。)
電波的な女性に引かれるのは男の性かもしれませんね。こんな日曜日を過ごしてみたいものです(笑)。

17/03/09 ちりぬるを

まーさんコメントありがとうございます!一応お姉ちゃん設定です(^^)
この過ごし方いいですか?笑

ログイン
アドセンス

ピックアップ作品