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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

性別 男性
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見せてくれる女

17/03/08 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:8件 霜月秋介 閲覧数:909

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 あなたはこんな都市伝説をご存知だろうか?
 午前四時に四丁目を散歩すると、見るからに素っ裸の上にロングコートを羽織っただけの姿をした、若く美しく髪の長い女性に会うという。その女性に「見せて欲しい?」と尋ねられ、それに「うん」と答えると、更にその女性は「じゃあ私が見せたら、あなたのも見せてくれる?」と尋ねてくる。それに「うん」と答えると……。


「助川さんって、優しくていい人ですよね」
 職場の飲み会の席。同僚の女性にそう言われると、助川トオルは照れながら礼を言った。しかしトオルにとってそれは、複雑な褒め言葉であった。
 トオルは、幼い頃から自分を抑えて生きてきた。なにか嫌なことがあっても誰にも愚痴をこぼしたりはせず、人の悪口を言ったりもしなかった。なにか欲しいものがあっても、家計が苦しいのを理解していて我慢した。食べ物の贅沢もしなかった。女性に対する下心もない。誰に対しても敬語を使い、何に対しても真面目だった。他人がいくら怠けようが許せるが、自分が人よりも怠ける、楽をするということが許せなかった。そんなトオルを、周囲の人間は『真面目で優しくていい人』と認識している。しかし違う。トオルはただ、人に嫌われないように本来の自分、『本心』を隠して善人を演じているだけだった。幼い頃から『優等生』のレッテルを貼られ、社会人になってからもズルズルと、人に嫌われるのを恐れるあまり、そのレッテルを剥がせずにいた。日々の生活に対する不満や会社の人間に対する愚痴、女性に対する下心など、面に出せずに心の中に溜め込んでる『本心』を、トオルは毎日、ノートに綴っては自室の机の引き出しに隠した。そうすることによって、日々の苛立ちを抑えていた。


 会社の飲み会は一次会が終わり、トオルは同僚達の誘いを断れずに二次会、三次会、四次会とはしごした。そしてようやく帰ろうとすると、同僚の平辺がトオルの肩を掴んで話しかけてきた。
「なあ助川、四丁目の露出女の噂、知ってるか?」
「は、はい、小耳に挟んでました」
「お前さあ、同期なんだから、こんなときくらい敬語やめろよ。それより今、三時半だ。なあ、一緒に行こうぜ?」
「え?いや僕はそんなの興味…」
「またまたぁ、いいから一緒に来いよ!本当は興味あるくせに」
 平辺に言われるがまま、トオルは断りきれずに四丁目まで共に向かった。

「なんだよ、いねぇじゃん」
 四丁目を歩き回って、時刻は四時半になっていた。しかし例の露出女には出会わなかった。
「帰ろうぜ。遅くまで付きあわせて悪かったな、助川」
「いえ…」
 平辺はがっかりした様子で帰っていった。トオルは少し休んでから帰ろうと、近くにある公園のベンチに座り込んだ。普段、トオルはあまり酒を呑まない。久々に酔って、頭がクラクラしていた。そして視界がぼやけて見えるようになってきた。

 しばらくすると、誰かが公園のブランコを漕いでいる音が聞こえてきた。トオルがブランコの方に目をやると、ロングコートを羽織った、二十代くらいの髪の長い女性がブランコを漕いでいた。トオルは目を疑った。膝から下が露出していて、コートの下には何も着ていないように見えた。トオルはふらふらとした足取りで、その女性に近づいた。すると女性はブランコを降り、コートのボタンに手を添えながらトオルに「見せて欲しい?」と尋ねた。トオルは迷うことなく「うん」と答えた。更に女性に「じゃあ私が見せたら、あなたのも見せてくれる?」と尋ねられ、トオルは周囲に人がいないのを確認した後、「いいよ」と答えた。すると女性は笑みを浮かべ、コートのボタンをひとつひとつ、焦らす様にゆっくりと外していった。そしてボタンをすべて外し終えると、コートに隠されていた素肌を、トオルの前にさらけだした。透き通るように綺麗な素肌が今、トオルの前にある。女性は「じゃあ、あなたも見せてね」と告げると、瞬く間に突然、姿を消した。



 翌朝。トオルが会社に行くと、会社の壁という壁に、いままでトオルが記してきた『本心』が貼り出されていた。見やすいように、拡大コピーされて……。


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このストーリーに関するコメント

17/03/10 石蕗亮

霜月秋介さま
拝読致しました。
正に都市伝説という描き方に感心しました。また、実際ありそうだと思わされる内容で面白かったです。話の進め方が上手くていつも読後に羨ましく思ってます(*´Д`*)こういう構成力が欲しい。

17/03/18 むねすけ

読ませていただきました
ラストの切れ味のよさが素晴らしかったです

17/03/25 霜月秋介

石蕗亮さま、コメントありがとうございます。

お褒めいただき有難うございます。都市伝説もピンキリですよね。幽霊ものからジンクスものなど様々で、どれを書こうか迷いました。まだまだ未熟者ではありますが、これからも宜しくお願いします。

17/03/25 霜月秋介

ねむすけ様、コメントありがとうございます。

本当は最後にもう少し、主人公のその後を書きたかったのですが、この終わりかたにしてよかったと思っています。

17/03/31 光石七

拝読しました。
「あなたのも見せて」、そういう意味だったとは。全く予想できませんでした。
でも、案外主人公にはいい荒療治になったりして。
面白かったです!

17/04/01 霜月秋介

光石七さま、コメントありがとうございます。

自分の心を丸裸にされてしまった主人公は果たしてこのあと、皆と打ち解け合えるのでしょうか…?好かれようが嫌われようが、自分に嘘をつかずに生きれたら幸福かもしれませんね。
ちなみに作中に登場する助川に平辺…あわせて助平…つまり男はみんなスケベなのです(笑)

17/04/03 あずみの白馬

拝読させていただきました。
本心が明かされると言うのは怖いですね。
女の正体は謎のまま、と言うのが良いです。
「見せる」の使い方に感服しました。

17/04/03 霜月秋介

あずみの白馬さま、コメントありがとうございます。

隠し続けてきた本性を見られるのは、場合によっては裸を見られるよりも恥ずかしいことなのかもしれませんね。

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