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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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その怪獣

17/03/05 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:6件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:474

時空モノガタリからの選評

寓話的なストーリーであるために、読む人それぞれが身近な問題を引き寄せて考えることができる作品だと思います。破壊と生成、二つの相反する行為のうちのどちらが人を本当に幸せにするか、確かにいうまでもないなのでしょう。しかしこのような究極的な破壊でなくとも、身近に溢れる暴力行為や暴言・いじめ・ギャンブル・過度の飲酒など様々な破壊行為には、平穏だけれども変化のない退屈な生活と比べ、興奮と刺激があり、それは時に人を虜にしてしまうのではないかと感じました。ラストの「自分がこれまでおかした失敗を、時間をかけてふりかえってみる」怪獣からは、それまでの内容とは打って変わって、可愛らしく素朴な姿が映像として眼に浮かぶようで、教訓的な話でありながら、どこか優しい読後感が残りました。

時空モノガタリK

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 その怪獣には、二種類の能力があった。
 ひとつは口から吐き出す破壊光線によって文字通り、地上のあらゆるものを破壊することができるのと、あとひとつは、あてると何もないところから生命を育むことのできる生成光線だった。
 最初のうち怪獣は、まず破壊光線で地上のごつごつしたところ、あるいはいびつに捻じ曲がったところなどを形も何ものこらないまでに破壊しつくし、そのあとに百花繚乱の花々を育てあげた。ひとつの口から破壊と生成の光線がでる怪獣ならではの行為で、これまでとおることさえできなかった峻厳な地帯がなだらかな草地になっていたり、また切り立った岩地がすっかりなめされていたりするのをみて人々は、じぶんたちにとって利益になることだけに、誰も文句をいうものもなく、むしろ暗にがんばれよと怪獣にエールを送るものたちもすくなくなかった。
 それをしってかしらずか怪獣は、それからもせっせと破壊光線によって地上の凹凸を木っ端みじんに破砕しては、そのあとに果実を、野菜を、緑鮮やかな森や林を生み出していった。
 最初のうち破壊と生成はほぼ半々の割合でおこなっていた。あるとき怪獣は、眼前にたちはだかる山を破壊するために、いつものように口を大きくあけて破壊光線を吐きかけた。――山は意外に手ごわかった。どんなものでも消滅させる光線を長い間吐き続けても、これまでの山さながらボールから空気がぬけるようにたちまち輪郭がしぼんでいくようなことはなく、いつまでもその場にでんと居座っていた。
 その怪獣は、それではとあたりの大気をぞんぶんに吸いこんでから、ふたたび山にむかってまばゆい光線を吐きかけた。 さすがの山も、根気がつきたかのようにドロドロと熔け落ちていき、みるまに空気中に蒸発していった。
 このとき怪獣は、まるで長年のライバルを打ち負かしたかのような、格別な勝利の喜びに酔いしれた。じぶんの力に、いいしれない快感をおぼえたのもこのときだった。その浮き立った気持が、いつもならかならずやるはずの生命の生成を、すっかり忘れさせた。
 そのときから怪獣は、もっぱら破壊を専門にやるようになった。たまに、おもいだしたように、草や木をもうしわけ程度に生成してみせたが、それもいつしかまったくやらなくなった。
 人々はいまになって、この地上に壊滅的な破壊をもたらす怪獣に恐怖し、いろいろ対策を練ってはこころみようとしたが、怪獣による破壊速度はそれよりも断然はやく、すでに国土の大半が消滅しているとあってはあとは神仏にでも手をあわせるほかすべはなさそうだった。
 その怪獣は、大地にむかって、猛烈に破壊光線を吐きまくった。吐けば吐くほど、光線の威力は増大していき、破壊への強い欲望がいやがうえに怪獣を煽り立てずにおかなかった。
 次々に山がふきとばされていき、とびちる岩石は地面に落ちるまえに白い煙と化した。光線がするどいナイフとなって、地面をバターのように切り裂き、地上のなにもかもがその深い亀裂のなかに轟音をたてて崩落していった。
 さらに破壊光線は、ますます勢いをましながら、地球そのものを切り刻みはじめた。
 ふと気がつくと怪獣は、じぶんが、ほんのちっぽけな大地のうえにあぶなっかしげにたちつくしているのに気がついた。 地球はもはや、宇宙空間にうかぶ、四角く切ったアボガトのようになっていた。もうどこにも、破壊光線を浴びせかけるところはおろか、まともにたっている場所さえほとんどないありさまだった。
 その怪獣は、じぶんをとりまく暗黒の宇宙を途方にくれたまなざしでみまわした。ためしにいちど、真上にむかって破壊光線を吐いてみたが、地球に対してはあれほどすさまじく威力を発揮した光線も、広大無辺な宇宙に対しては、ノミのゲップよりもまだめだたなかった。
 その怪獣は、いまは自分の足台にしかすぎなくなった地球を、背中をまるめてながめた。
 足と足のあいだに、わずかな地面がのぞいている。怪獣は、破壊光線ばかり吐きつづけて、ひりひりする喉のおくからひさかたぶりに、生成光線を吐いてみた。温かみのある光線が心地よく口からほとばしりでた。
 光線があたった地面に、むくむくと芽がのびだしたのは、それからまもなくのことだった。面積がちいさいぶん、芽はわずか一本しかのびなかった。それでもそこに、つぼみがふくらみ、内側からそれをおしひろげるようにしてまっしろな花がひらいた。
 その怪獣は、ながいあいだ、足元の花にみいっていた。
 一本の花を生み出すことが、こんなにも心みたされるとは………。それを忘れていたじぶんがいまほど愚かで情けなくおもえたことはなかった。
 怪獣はそれから、この地上で唯一のいのちあるものとむきあいながら、自分がこれまでおかした失敗を、時間をかけてふりかえってみることにした。



 


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このストーリーに関するコメント

17/03/05 まー

絵本作家に宮西達也さんという方がいるのですが、なんというか読後感に相通じるものを感じました。
感性が豊かでないとこういった類の作品は生み出せないだろうと思います。素敵な作品をありがとうございました。

17/03/06 文月めぐ

はじめまして。文月めぐと申します。
物語拝読いたしました。
「破壊」と「生成」、対になるものをうまく組み合わせた作品であると思いました。
「一本の花を生み出すことが、こんなにも心みたされるとは」という文章は読んでいてほっとしました。

17/03/06 W・アーム・スープレックス

まーさん、コメントありがとうございます。

自分の感性は自分ではわからないので、このようにコメントしていただくと、素直に嬉しいです。宮西達也さんの作品、いつか読んでみようと思います。

17/03/06 W・アーム・スープレックス

文月めぐさん、はじめまして。

「一本の花………」そこへいきつくまでに怪獣は、いやというほど失敗をくりかえすわけですが、その失敗がなければ「心みたされる」こともないのかもしれませんね。 コメントありがとうございました。

17/04/14 光石七

拝読しました。
寓話的な、深みのあるお話ですね。人間もこの怪獣と同じことをやっているような……
“一本の花を生み出すことが、こんなにも心みたされるとは………”、この一文が胸に響きました。
素晴らしい作品をありがとうございます!

17/04/15 W・アーム・スープレックス

いつものことですが、後で読み返してみて、あ、こんなことを書いていたんだと、自分でもおどろくことがあります。今回の作品もその類で、書いてる時は無我夢中で、何日かたって冷静になると、またみえてくるものもあります。作品というのは、書きおえた時点で作者から離れていくと誰かがいっていましたが、本当にそんな心境です。光石さんの場合は、どうですか。

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