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Simple Lifeさん

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ペースメーカー

17/03/04 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 Simple Life 閲覧数:186

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『どうして決められたペースを守らない?いつも言っているだろう!』
 又、監督の怒号が飛んだ・・

 定期会議のいつもの見慣れた光景だ。
 最近はその回数も増えてきた感は否めないが、こちらにもこちらの言い分はある。

 若い担当者が細やかな反論する。
 『私自身は守ろうと努力はしているのですが・・クライアントがすぐ暴走してしまうのです』

 それを聞いた監督が更に畳み掛ける。
 『それは今始まった事ではない!それを調整するのも君達に課せられた任務だ。それらを踏まえた上で、君達も成長しなくてはならない!』

 (成長か・・) 
 思わず溜息が漏れる。
 
 私自身のクライアントはそこまでの暴走はないが、こちらはこちらで悩みもある。
 私のクライアントは、性格は良いが、それが災いするのか、駆け引きに弱い。
 だから勝負に弱く、いつも連戦連敗。いくらこちらが引っ張って行こうとしても、こればかりはどうにもならない。
 成長する意義は認めるが・・それも限界があるってもんだ・・

 更に我々はクライアントを選べない。確かに付いてみなければ分からない事はあるが、そこで失敗だと思っても自身の意思でそのクライアントからは離れられないのだ。
 だからと言って、手は抜かないし、匙も投げない。そこはメーカーとしてのプライドがあるし、各々の力量も試される。
 そんな志が高い者がほとんどだが、時にはクライアントの意思が勝り、リセットに向かう者も少なくない。
 リセットさせてしまった者は当然ペナルティを課せられるが、そこまでに向かうまでは色々あっただろうし、力量不足もあるかもしれない。永く付き合っていれば、人間界でいう、「情が移る」ってもんだ・・

 我々はクライアントと呼んでいる、人間ひとりひとりに付いているペースメーカーだ。
 人間が生まれた時から、その生涯を閉じるまで、ずっと付いている。
 まぁ・・人間にはその姿は見えないが・・

 人間は自身で考え、自身の赴くままに行動していると思っているようだが、とんでもない話だ。
 各々が勝手に考え、勝手な行動をしていたら、人間界の秩序なんか保たれない。
 なぜ、最低限の秩序が保たれているのか?
 それは、我々がルールに基づき、誘導をしているからに過ぎないからだ。
 ただ、誘導はするが、あくまでも、人間の意思は尊重する。それぞれ生を受けた時からの環境は変えられないが、そこから自身の進みたい方向に節度を守りつつ誘導する。
 だが、我々は自身の意思で別の方向に変える事はできない。
 なぜなら、人間自身が考え、導き出した方向でしか誘導出来ないのだ。
 時には、予想だにしなかった誘惑や出来事で、方向転換を強いられる事はあるが、それは人間界で言えば、「仕方ない」といった所なのかもしれない・・
 その方向が失敗だと思っていても我々はどうする事も出来ないのは歯がゆいが、そこでリセットするという選択も、あくまでも人間が導き出した結果だ。

 しかし、人間自身が、その心の中で語りかけてくれれば、その時々の状況で、他のメーカーに連絡をしたり、何かヒントになる事を見させたり、聞かせたりする事は出来る。
 残念ながら、我々から人間に語り掛ける事は出来ないが・・

 監督は更に続ける・・
 『成長とは、クライアントの立場になって考えるという事だ。確かにクライアントの意思を尊重しなくてはならないが、最近はすぐにリセットをしてしまうという事由が多発している。阻止はできないが、ほんの少しでいいから、他の方向を提示できるはずだ!』

 確かに・・安易にリセットするのは本意ではない。ただそれも人間の意思があっての事だ。

 会議も佳境に入り、それぞれの元に戻る時間が近づいてきた。

 先程の若い担当者が小さく呟いていた。
 (あんなに荒れて・・誰も分かってくれないって・・ 独りじゃないんだからさ・・もっと自身に語り掛けてくれれば・・・)

 そう人間は独りじゃない。誰もいないなんて事はない。かならず我々がいるのだ。
 何かあったり、最悪、リセットを決めたりする前に・・もう少しだけ自身の心に語り掛けて欲しい。
 きっと、何か違う方向を導けるヒントを提示出来るかもしれない。その選択が失敗だったと思ってもらう為に・・

 戻ると、私のクライアントが呟いた・・
 ⦅はぁ・・また降格かぁ・・もう辞めようかな・・もう疲れた・・⦆
 さぁ!自身の出番だ。
 私の言葉は届かないが、自身の心の中で語りかえる。
 (大丈夫!あなたの力はこんなもんではない・・ここからだよ!・・)


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