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むろいちさん

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部屋の外、ホテルの中。

17/02/28 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 むろいち 閲覧数:355

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 柳田はビジネスホテルにチェックインした。
 片手には買ってきたビールやツマミ、弁当をぶら下げている。
 今日は地方出張にやってきた。
 日帰りも可能だが、たまには誰にも干渉されない一人の時間が欲しく、地方出張の際には妻に何かと言い訳をし、泊まっている。
 部屋で一人、ビールを飲むのがささやかな楽しみだった。

 何の変哲も無いビジネスホテルの一室。
 自販機が部屋の前にあった。
 買う気もないのに値段を確認し、定価であることに安心して部屋に入った。
 鍵を照明スイッチに入れ、カバンを置き、ビールを冷蔵に入れ、ツマミをテレビの脇に置くと、服を脱ぎ去ってシャワーを浴びた。
 一日の疲れを流し、ざっと拭いて、何も着ずにベッドに腰掛けた。
 この姿でも何も言われない。
 酔っ払ってそのまま寝ても問題がない。
 冷蔵庫からビールを取り出し、缶を開けてビールを喉の奥に放り込んだ。
 深く息を吐いた。
 そして、テレビをつけ、柿ピーをつまむ。
 至福のひと時であった。
 
 明日が休みという余裕のせいか三本のビールをすぐに飲み干してしまった。
 心地良いが物足りない。
 弁当をビールでつまみたい。
 自販機のビールは定価である。
 「買うしかないでしょ」
 テレビのニュースに向かって呟いて、カバンから財布を取り出した。

 ドアノブに伸ばした手を止めた。
 目の前だからといって素っ裸で出て良いのだろうか。
 部屋の外だし、ホテルの中である。
 ドアスコープから廊下を眺め、耳をすます。
 誰もおらず、気配もない。
 「いける」
 そう口にしたが動きを止めた。
 財布からお金を取り出し、自販機に投入している間、またはビールやお釣りを取っている間に誰かが来るかもしれないと思った。
 財布を確認する。
 幸運にも五百円玉があった。
 五百円玉を手にし、再び外を確認する。
 「大丈夫」
 ドアを開けて飛び出し、機敏に五百円玉を投入し、迷いなく大きい方のビールのボタンを押し、缶とお釣りをさっと取って、素早く部屋に戻ろうとしたが固まった。
 
 ドアが閉まっていた。
 恐る恐るドアノブに手をかける。
 回らない。
 鬼のオートロック。
 柳田は素っ裸で缶ビールと小銭を持って立ち尽くした。
 ドアベルを押してみる。
 虚しく鳴り響いた。
 「どうしよう」

 エレベーターの所に内線があるんだよな。と通ぶって、エレベーターに向かう。
 「ない」
 フロントに行くしかない。
 チェックイン時は女性スタッフだった。
 時間も経っているし、男性に替わった方に賭けよう。
 何か隠せるものがないか見渡すが何もない。
 缶で隠すが、手だけの方がよく隠れるのではと思い、缶を置いて試した。
 手のみの方が有効的だった。
 だが、缶を置きっぱなしにすると後で飲むつもりなのに持って行かれてしまうかもと不安になった。
 「そんな場合じゃない」
 そう思うもビールを失くすのは惜しいので、ドアの前に置いた。

 誰も乗っていないでくれ。
 到着したエレベーターは無人であった。
 安堵しつつも次は、誰も乗らないでくれと祈りながら、階数表示を見上げる。
 順調に下がるエレベーター。
 「頼む」
 願いは虚しく、エレベーターが四階で停止した。
 浴衣を着た老婆二人が入って来た。 
 壁際にピタリと体をつけ、前を隠すが後ろは丸見えの柳田。
 老婆二人はギョッとするも恥じらう柳田を見て笑い始めた。
 「あなたもお風呂?」
 「いやだ、もうっ」
 柳田はビールで赤くなった顔をさらに赤くて俯くことしかできなかった。
 老婆たちは笑ったまっま階で降りた。
 素早く閉じるボタンを押す柳田。
 「階段使えっつーの」
 
 一階に着いた柳田。
 エレベーターから慎重に出て植木鉢の陰で様子を窺う。
 誰もいない。
 柳田はダッシュでフロントに向かった。
 フロントにも誰もいない。
 ベルを鳴らすと「チン」と短い音が響いた。
 頼む。
 男であってくれ。
 なかなか出てこないのでベルを連打した。
 願いが届いたのか、男性のスタッフが出て来た。
 「すみません。703の柳田ですけど、鍵持たずに出ちゃって」
 慣れているのか淀みないスタッフ。
 「かしこまりました。失礼ながら、ご本人と証明できますものを」
 「今?」
 「お部屋で結構です」
 「ですよね」
 「これを」
 スタッフはタオルを差し出した。
 「すみません」
 タオルを巻いてスタッフとエレベーターに乗った。
 
 黙って階数表示を見上げる二人。
 無言で七階に到着し、扉が開いた。
 目の前に、素っ裸で前を隠した男が立ち尽くしていた。
 柳田は旧友と再会したかのように破顔した。
 スタッフはため息を漏らした。
 「お客様は何号室ですか?」 

(了)


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