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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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致命的な失敗

17/02/28 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:298

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 かれらに私は見えない。ただ、感じるのみだ。それはこの地上に存在するすべてのものたちも例外ではない。
 原始的な生き物たちには、私を感じとる意識も希薄なため、相も変わらず地べたにはいずりまわり、また海のはるか底の暗闇のなかに茫洋としてうごめいているにすぎない。
 私を強く感じとることのできるものは、その身を、進化とともに私の姿に似せていく。それはこの地上の、いや、あまねく全宇宙の生き物たちにとっても、かわりはなかった。すべては、創造主である私を模倣するのだ。
 なかでも、いまそこをゆく、いまはまだ全身毛むくじゃらで、本能に強く支配されて、肉体の求めるままに生きている生き物が、哺乳類の中ではいちばん、私を感じとっているといえるだろう。
 なぜならかれは、よたよたとはしていても、そのひ弱な二本のあしで、全身を支えてたちあがり、そして地上を歩きはじめたのだから。
 それにくわえて朝、地平線を深紅にそめてのぼる太陽に、神秘的な美しさを感じておもわず目をほそめてみいる姿は、もはやこれまでの、草をたべ、けものの肉をくらい、そして虫たちをわしづかみにしては口にほうりこむだけの野蛮なかれではなかった。
 かれ以外のどんな生き物たちも、美をうけとめる感性はもちあわせてはいない。美的感覚を身につけることこそ、私に近づく大きな一歩にほかならなかった。美は、それまでの無意味で放恣な生き方をしていたかれに、未熟とはいえ秩序と調和をあたえた。おのずからそこに、平和と愛の芽がはぐくまれることだろう。
 かれはいま、周囲の四足で移動する生き物たちのあいだを、覚束なげではあっても二本の足で、踵を地面におしつけながら、歩いていた。その目はたえず、興味と好奇心に輝き、あきらかに知恵の兆しをそこにあらわしていた。
 かれにとっては、自分の仲間がいまだに、両手を地面につけて歩いていることが、おかしくもあった。足でたつようになれば、手は自由になり、枝からたれる木の実をもぎとることもできれば、また河の生き物をつかみとることも楽にできるのに。
 かれは、得意満面だった。二本の足でたつことにより、四足で歩いていたときよりはるかに視界がひろがり、はいつくばっているみんなを見下ろすことで、気分的に優位にたつことができた。
 ほかのみんなもかれにならって、いっときもはやく四足から二足歩行への飛躍をとげてくれることを私は願った。
 すると案の定、かれの周囲にいた連中が一人、また一人と、最初はあぶなっかしげに、曲がった膝をそろりとのばして、ふらつきながらもたちあがりだすのが見えた。
 仲間によりかかり、物につかまり、こわごわたっていたかれらも、いつしかその手をはなして、じぶんの体重を足二本でささえるようになっていった。
 じぶんでたっておきながら、誰かが、自分に力を貸してくれているような感じがたえずつきまとっているにちがいない。その力にすがってたちあがったときにわきあがる高揚感の晴れ晴れとした気分は、またとないものだろう。かれらは一様に、こみあげる感謝の気持をあらわすつもりで、空にむかって手をさしのばした。
―――おまえたち私の子供らよ、私はいつでもおまえたちのそばにいる。肌をなでつける風に、足元に咲く草花に、流れる水に、岸辺の石に、そしておまえたちじしんのなかに………。
 いきなり辺りがざわついた。どうやら、群れと群れが対立し、いさかいを起こした模様だった。くいちがいは、活動するものたちには避けられないことがらで、そこからまたあらたな協調もうまれようというものだ。
 争いはかなり激しくくりひろげられた。肌をひっかき、また咬みつき、素手同士で戦ううち、何人もが血を流して、地面に倒れた。
 その中の一人がふとしたはずみで、ころがっていた獣のふとい骨を手にした。無意識にかれはその骨を握りしめた。そしてとびかかってきた男を、その骨で振り払った
ところ、鈍い音がして、相手はたちまち昏倒してしまった。おもわぬ手ごたえに味をしめたかれは、次々に敵をぶん殴っては面白いように倒していき、ついにすべての敵を殴り倒すと、骨をもった腕を高々とさしあげて、勝利の雄叫びをあげた。人類の祖先がこのとき、はじめて武器を闘争に用いた瞬間だった。
 その一部始終をみていた私のもらした絶望のため息が、いかに深いものだったかを、誰がしるだろう。
 かれが手にした武器こそ、はるか未来にこの世界をふきとばす最終兵器につながる第一歩だということが、私には確実に予見できた。
 私にとって最高傑作といえる人間の想像こそが、長きにわたる進化をへてこの地上に愛と平和にみちた楽園を実現させる最善の方法と信じて疑わなかった私だったが、ここにきてそれが、致命的な失敗だったことを自覚せざるをえなかった。
 もはやあともどりはできなかった。


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