白沢二背さん

白沢二背と申します。現在、月に一度もペースで執筆中。

性別 男性
将来の夢 恐竜になる事
座右の銘 石の上にも三年

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17/02/28 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 白沢二背 閲覧数:152

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 私の名前は靴子です。今日も御主人様の足許を護ります。
 ヌバックレザーで出来た私には、御主人様を護る方法が御在ません。
 何と言っても、今日は雨の日ですから。
 ◆
 或る晴れた日の事でした。御主人様は斯う仰られました。
 靴子さん、今日は天気予報に拠ると雨が降るらしいよ。
 僕は君を履いて行くのを已めようと思う。
 私の一日等はかないモノです。靴箱の中身で小じんまりと震えるのみです。
 御主人様は斯うも仰いました。「明日に成ったらきっと履くからね。其れで我慢しておくれ」。私の日常は斯うして俟つ事。此の日も私の出番は、有りませんでしや。
 靴べらさんが羨ましいです。今畜生、て、気持ちに成ります。
 私と御主人様の出会いは或る一軒の靴屋ででした。
 棚に飾られていた私をちょっと御高目の私を、御主人様が身受けされたのです。
 其の日から、私の苦難は始まりました。「手始めにオイルレザーの靴男さんと並列にされ、私は気が気ではなく成りました。翌日から雨が降り頻り、私は私である事の限界を感じました。
 防水仕様には余念が無いモノの、私の装甲は水捌けが良くありません。
 オイルレザーさんも同様だったので、此の日は生憎と、御留守番と成りました。

 或る朝、御主人様は又言いました。「靴子さん。台風が来たみたいだ。残念ながら今日も君を履いて行く訳にはいかない」。
 私は残念で残念で成りませんでした。此んなに晴れた日を心俟ちにしているのに、何故御天道様は意地悪なのでしょう。オイルレザー氏も、其れに関しては同様の様でした。
 私の街には雨が降ります。雪も良く降る豪雪地帯なのです。
 私は御先祖様を恨み、次いで此の地に降る雪を呪いました。
 遂には我慢出来なくなって、ちょこっとだけ、沿う、ほんのちょこっとだけ向きを変えたりもしました。
 或る朝、遂に晴天の秋晴れに恵まれました。
 私は、私が私でなく成った様な気がして、御主人様へと語り掛けてみました。
「ねえ。御主人様。今日こそは私を履いて下さらない?」。「御免よ靴子。今日も君を履いて行くには不都合みたいだ」。そも、靴である私の言葉が御主人様に届く筈も御座いません。私は、私である事が嫌に成って、或る朝一大決心をしました。
「ねえ御主人様、私、靴の身で何ですけども、色々な事がしたいです。色々な所へ行って、色々な靴と出会って、其れで其れで、様々な物事を体験したいのです。ええ」。無論靴足る私の言です。届こうにも届く訳がありません。
 しかし願いが届いたのでしょうか。翌日御主人様は私を連れて色々な所に行ってくれました。
 廃ビルに公園、店先や路地裏迄。其れは其れは楽しいモノでした。
 ふと気付くと、小雨が降って参りました。
 私は、私である事も忘れ、事の外有意義な時間を過ごしていたのです。
「今日はもう帰ろう」。御主人様が言いました。
 私は致し方無しという態で随行したのですが、本当はもっと遊びたかったのです。
 遊んで喋って、何よりも履いてほしかった。御主人様の足許を護るのが私の生来の役目です。もっと遊んでほしかったし、もっと楽しんでほしかった。其れだけが唯々心残りなのでした。
 ◆
 雨が降っています。心身共に凍える様な雨です。
 下駄箱から外をうかがうと、其処は、今日も私の世界。靴子は厭いてしまいました。
 斯うして防水加工の施された靴達と並べられていると、皆が皆、私よりも優秀に見えて、心の中ではうとましく思い。兎に角、嫌なんです。私だって外を歩きたい、履いてほしい。表を自在に飛び回ってみたい。或る朝、私は斯うも思いました。或の日、今の御主人と会っていなければ、私は私としてもっと多くを見て回れたんじゃ。沿うよ。沿うに違いないわ。私は、私。ちょっと毛羽立ってたって、汚れてたって、斯うして天日干しにされてるよりは有意義な筈よ。沿うよ、沿うに違いないわよ。
 私は私を取り戻す旅に出ました。其れは、些か早急にも思われましたが、此処でじっと後悔するよりは良いと思えました。後悔して後悔して失敗もすれば戸惑いもする。其んな御主人の許を目指しました。
 雨が降っていました。身体の芯迄凍える様な、冷たい雨でした。
 私は私であるのです。だから斯うして自由なのです。
 雨が降っていました。身体の芯迄凍える様な、冷たい雨でしや。
 毛羽立った身体が酷く寒々しくて私は私を雨宿りさせました。
 すると今度は男の子が遣って来て斯う言ったのです。
「やあ。良い靴が在るぞ。今度からは僕が御前の御主人様だ。良いな」。震えました。ちょっとの天候でさえ微妙な私。私はひょっとしたら或の儘あそこに居た方が良かったんじゃ……。しかし今と成っては時既に遅し。――斯うして私の身心は、泥塗れに代わったのでした。








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