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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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アオイトリ

17/02/27 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:671

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「諦めないで、意外と近くに青い鳥がいるものよ」、就職戦線に放り出され四苦八苦する私にくれた、先生の慰めの言葉だった。
 アオイトリ、なんて素敵な響き。
 でも先生。
 私、夢を鳥籠に飼いたい訳じゃないんです。
 どうか飛び立って、お願い……。


 専門学校の卒業式を迎えるだけとなった冬の終わりは、私にとっては憂鬱だった。図書館からの帰り道に、川沿いのサイクリングロードを自転車で走ってみようなど好奇心を煽られたのは、暗い気分を吹き飛ばしたいという思いがあった。
 全長20qほどの自転車道が伸びる河川敷は、枯草が刈り取られた後のようで、丸裸の自然は寒々しく思えた。そんな中で老若男女問わずスポーツを楽しむ人が大勢いることには、ちょっと目を見張る。私の知らない世界に来たみたいだ。
 入学式から苦楽を共にした愛車は、まだまだ健在である。くすんだ空色のフレームと銀の車輪は、素朴な冬の風景に消えそうなほど馴染んでいる。ちっぽけな私も、溶け込んでしまいたかった。


 自分のデザインした洋服が作りたい、子供の頃からの夢だった。服飾の専門学校に通って2年。あちこちのアパレルメーカーの会社から届いたのは、不採用の通知ばかりだった。固く心に誓った将来は、悔し涙で曇ると、砂糖ほどの脆さであっさりと崩れさる。
 散々に親や先生や友人に迷惑をかけた後、地元の小さな服飾関係の会社に就職が決まったが、いまだに気分は晴れない。
「何にしろ、理沙ちゃんの夢が叶ったんだから」
 みんなは祝福をくれたけれど、上手く気持ちが切り替えられなくてまごついている自分が情けなくて仕方がない。
 こんな気持ちで卒業かぁ……。
 サイクリングロードを、スピードを上げて色鮮やかなロードバイクが風のように走り過ぎてゆく。一本道は清々しい。軽快に行く先に、あるはずのないゴールをちゃんと見いだせる彼らが、私には羨ましかった。私の走らせる自転車では、到底追いつけそうにない未来だ。

 
 そんな時だった。
「え?」、アスファルトの道にいた雀の群れが一斉に羽ばたいた。私はブレーキをかけ、自転車を止める。
「雀……じゃない?」
 一瞬前まで雀だと思っていたが、飛び立つと緑がかった黄色の腹が見えたのだ。私は、あんな姿は雀以外に有りえないと思い込んでいたので、しばし呆然としていた。
 スマートフォンで検索してみるとそれは『アオジ』という野鳥であることが分かった。
 私は俄然面白くなって辺りを見渡した。すると冬の色に紛れて結構野鳥がいるのだ。鳥に茶系統が多いのは保護色、逞しく生きる知恵なんだ。この水辺では誰もが、神様がデザインなさった色形を身に纏い、誇らしげに生きている。
「ピュールルチチチチ……」、あちこちの草陰から間断なく聞こえてくる鳴き声には聞き覚えがある。ヒバリだ。
 いつも繁殖期に天高く舞い上がり、春を謳歌するヒバリが、冬の終わりに地面の上で鳴いているのが意外だった。
 私は一生懸命にその姿を探してみた。
 ……いた。
 体長20センチ近くの、目立たない黒褐色の模様の入った身体で、頭には冠羽を立てている。オスらしい。高らかに主張する鳴き声に反比例するような慎ましやかな姿で、私は励まされた。そうだ、大空ばかり見上げて首の痛くなった私には、足元さえまだ何も見えていない。


 結局の所私は、とっくの昔に鳥籠から出ていたというのに、羽の色が思うほど青くない鳥のような自分に気づいて、酷くがっかりしていたのだ。
 私は……この空の青も好き。年季の入った自転車を押しながら、「これからも頼んだよ」と、私は小さく声をかけた。あの軽やかなロードバイクからすれば、走行距離なんてたかが知れているのかもしれない。けれど、私は頑張ったのだという事を、一番よく見ていてくれた相棒なのだ。
 一番でなかった。涙も流した。それでも夢が叶ったのだという事を、素直に受け止められる、今なら。


 サイクリングロードを折り返してきたロードバイクが、今度は勢いよく私と自転車に近づいてくる。
 そのとき木々の間に開いた空を、宝石のような輝くブルーが飛翔した。小さな鳥だ、オレンジがかった腹を見せ、誰よりも速く、誰よりも力強く、私の前を飛んでみせた。


 カワセミだ。
 空に隠れることもせず、怖れも知らぬ美しさで、光沢のある翼を広げ舞い上がる。
 アオイトリ。
 飛べ、何処までも。


 自転車に跨り、私はその後を追うように走った。ちっとも走りは上手くないのに、ロードバイクが気遣うように速度を緩め、私のために道を譲る。
 
 さよなら、アオイトリ。そして私は等身大の夢を見る。
 
 一本の道をすれ違う私たちの間には、春の始まりの風が頬を叩いて吹き抜ける。
 その風に乗って、青い鳥は高く高く、果てのない大空へと還っていった。


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このストーリーに関するコメント

17/02/27 冬垣ひなた

≪補足説明≫
・左の写真は、「写真AC」からお借りしました。
・右の写真はヒバリ(オス)です。サイクリングロード沿いにいた所を撮りました。

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