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相葉俊貴さん

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花粉症伝染列島

17/02/27 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 相葉俊貴 閲覧数:197

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【以下、20××年に発生した未曾有の花粉災害に関する手記】――――――
『26.5%』――日本におけるスギ花粉症の疾患者数の割合である。日本国民のおよそ三千万人以上がスギ花粉に文字通り涙していた。
 日本には広葉樹を含めた多種多様な樹木があった。高度経済成長の折に、建材として木材の需要が大きく成長し、『真っ直ぐに伸び、生育も早いスギやヒノキなどの針葉樹』が大量に植林された。安価な海外材木が輸入されるようになると、植林されたスギが放置されることになり、やがて日本はスギ花粉に悩まされるようになった。スギは木ノ実を成さないため、動物にとっても有意ではなく、スギに埋め尽くされる森は『緑の砂漠』とも呼称される。
 もはや公害というべき段階にまでスギ花粉は成長し、春に悪注目される植物として定着するに至る。春に良注目される桜と比較するべくもない。
 目先の旨味だけを追うとこうなるという良き事例である。
 そして花粉症はおそるべき段階に移行した。
 致死性花粉症――。しかも感染力を有する。
 島根県の一部のスギがウィルスに感染したことが発端で、スギ花粉全体が形態変化を起こした。ウィルス本来の他生物への寄生能力が花粉へ伝播することは想定されていなかった。
 花粉の飛散性を利用したウィルスは、スギ花粉を不活性化させることなく、花粉の粒子をコーティングするように寄生することが明らかになった。この段階で、大まかな発祥元と、花粉への寄生形態以外はほとんど解明されていなかった。
 この致死性花粉症は、T型花粉パピローマウイルス、通称SPMVと呼ばれた。
 SPMVは、人体に感染するとまず粘膜機構を削ぎ落とし、そこから爆発的に増殖する。発熱、くしゃみ、目や鼻の痒みなど、花粉症と同じような軽度な症状を経て、強烈な動悸へと発展、やがて全身の穴から大出血を引き起こす。
 感染後に有効な対処法はなく、異常に致死率が高いのも特徴である。
 八百万人という掛け替えのない人の命が失われてからようやく、日本国民には全身防護スーツの着用が義務付けられた。国家としての機能は著しく低下し、三ヶ月ほどの短期間でGDPのポイントを大きく落とした。
 スギ花粉が猛威を振るった季節を越え、私を含めた有識者会議が開催され、そこでようやく『スギの全面的焼却処理』が合意に至った。
 その時既に、一千万人という命が失われていた。日本列島には悲しみが蔓延した。さらに特筆すべきことに、スギ花粉の脅威にさらされていない北海道の人口は爆発的に増えた。
 そして日本国民はSPMVの脅威を測り損ねていたことに気がつく。SPMVは、人から人へも伝染する力があった。異常なレベルにまで人口密度が高まった北海道で、さらなる悲劇が巻き起こったことは筆舌に尽くしがたい。
 またも六百万人という尊い命が犠牲となり、もはやスギの全面的焼却処理は待った無しの状況となった。
 やはりと言うべきか、意外と言うべきか、元来花粉症に悩まされている人間だけがSPMVにより命を落とすことが、莫大な命の対価としてもたらされた情報だった。
 次々とスギの焼却処理が進められたが、機能を低下させている日本にとってスギが多すぎたため、次のスギ花粉の発憤までに処理が間に合うか微妙なラインであった。
 他国の支援は芳しくなく、正体不明に近いSPMVに近づく国は無かったに等しい。その中でも一部の有志団が支援に来日してくれたことに感謝の念を抱く。かくいう私も花粉症持ちであり、ここで手記を書くことしかできない。学者とはなんと微力なことか。
 知を蓄積することが、すなわち人類社会への貢献と思い、これまで研鑽してきたつもりであった。しかしスギという植物を単なる木材と捉えるような失敗を是正することもできない。人類にもスギにも、それらの未来にも、私は何の責任もとることができない。それが辛い。
 しかし日本は逞しかった。一月の下旬、ついに日本からスギを一掃するに至った。その報がもたらされたとき、私は静かに泣いた。失われた多くの人命に対してか、もしくはスギの魂に対してか分からなかったが、涙は止まらなかった。私の涙など知るべくもなく、かくしてスギの全面的焼却処理は完遂をみたのだった。
 この記録は、悔恨の意を表すためではない。いつか再び、またも人類があやまちを犯さぬように、この手記が何かしらの貢献をなすことを期待して記した。
 どれだけの苦境であっても絶望してはならない。人はそれほど弱くはないのだから。

20××年××月××日 記
――――――――――――――――

 私は、手記を書き終えて、テレビを付けた。
 テレビではニュースがやっている。
「新しい花粉症が発見されました。原因の植物はどうやらサクラであることが――」


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