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のあみっと二等兵さん

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虚妄という枷を外す術は。

17/02/27 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:3件 のあみっと二等兵 閲覧数:441

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外は酷い嵐。窓を激しく叩く雨音。どれだけ叫んでも届かない。誰にも。例えそれが恐怖におののく悲鳴でも、抵抗する為の懇願でも、私に対する愛の言葉だったとしても。
「何か思い出しましたか?」
カウンセラーの問いに、瞼をゆっくり開いた。そのまま黙り込む私を認めて、彼女は短く息を吐く。それが溜め息なのかどうか。別にどうでもいい。興味が無い。
「雨は嫌いですか?」
嫌いじゃない。言葉にはしないが。
これだけ激しい雨なら、むしろ好きだ。あの時もこんな暴風雨で。夜の帳も合わさって、あの女の声だけではなく、最期の姿も乱れた画像のようで鮮明には思い出せない。同時に、自分が吐き捨てた言葉もきっと届いてはいないと思う。けれど、それは私が壊れてしまっていたからと言われてしまえば、それまでだ。
全てを終えて、佇む私の足元に横たわる母親だった女の形相は、ハッキリと脳裏にある。手にしたナイフから、雨と混ざりあって滴る生温かい鮮血が、柄を伝って指から、手の甲へと流れた。
ーーー そうじゃナイ ーーー
頭の中で声がする。映像が歪んで変化する。
逆流するように腕から手のひらへと滴るのは、自分の血液。
その感覚が、気持ち悪い。嫌だ。違う。
「大丈夫ですか?」
唇が震える。体温が下がっていく。呼吸が上手く出来ない。
霞む視界の中で、微かな金属音と、消毒液の臭い。嫌だ。注射は嫌だ。
逃げたい、でも身体が上手く動かない。数分もすればこの意識は闇に落ちる。毎回こうだ。あんた達もあの女と変わらない。これ以上私を勝手にコントロールしないでよ。

ーー 産まなきゃよかった!!! 失敗した!!! ーー

そう吐き捨てながら、幼く、抵抗できる力が無い私を、疲れるまで殴り続けた。その彼女なりに意味のあった暴力は、いつしか只のストレス解消へと変化して。物心ついた頃から始まっていたそれは、私が高校生になる今でも続いた。
だから ーーーー

「殺したいと思った……?」
「はい」
「でも叶わなかったのね」
「………はい」

入院してから1年8ヶ月後。カウンセラーの言葉に、私は素直にそう応えられる様になっていた。
「よかった。間違わなくて」
そう言って私の頭を撫でた手のひらが酷く温かくて。子供なのに泣きじゃくる事すら赦され無かった心がゆっくりと溶かされて。18歳になった今、幼心を取り戻すみたいに声にもならない声を上げて泣いた。

それから更に半年が経って。
「もう大丈夫」そう言われて、退院する事になった私を、あの女が迎えに現れた。こちらをただ一瞥しただけ。手続きを済ませて、家路についた。悪趣味な香水の臭いが、後ろを歩く私の脳内と、胸の奥に黒い何かを増幅させる。
……キモチワルイ……
またあの家に帰るという現実が、まともな精神を削ぎ落として。
「着いたわよ」
ビクリとして顔を上げた私の手を強引に掴み、玄関ホールに突き飛ばした。後ろ手でドアをロックした母親は醜く顔を歪める。横っ面に重い衝撃。殴られたと理解するのに時など必要も無く。二度目の衝撃は ーーー無い。目の前の瞳には、驚愕と、僅かな恐怖が揺れる。女の振り上げられた腕が、私によって掴まれ、行為を阻んでいたから。それは、初めての抵抗だった。
もう、あんたの思い通りになんか、ならない!!!
言葉には、やぱっりならないけど。

それから暫くして家を出た。もうあの黒い感情は無い。想像から切望し、虚妄に変わっていた偽りの記憶が現実になる事も無い。あのヒトみたいにはならない、と決めたから。
私は失敗せずに踏み留まれたのだ。


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このストーリーに関するコメント

17/03/07 楓の葉っぱ

なんか……奥深いなぁ……と……
でもなんかリアルで、思わず読み入ってしまいました。
いろいろ考えさせられる作品だと思います。
有り難うございました。

17/03/10 のあみっと二等兵

>楓の葉っぱ 様
コメント有り難うございます。
奥深い、と受けとっていただけた事、大変嬉しく思います。
何かがどんな形でも残って下さっただけで、書いて良かったなと思えます。有り難うございました。

17/03/10 のあみっと二等兵

>ふぉっくす 様
コメント有り難うございます。
いえいえ、読み専の方の感想は、貴重だと思えますので、感謝しか御座いません。
加えて、冷静な分析のもとで、私が伝えたい事を読み解いていただけた事が本当に有り難い事だと感じております。
ふぉっくす様のコメントを素直に受け入れ、これから先に生み出す物語の為の参考と糧にさせていただきます。
本当に有り難うございました。

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