ツチフルさん

お時間があるときにでもお読み下さい。 自宅にネット環境がない都合上、新作を投稿するときのみのアクセスなので、感想などの返信が遅れてしまいます。 申し訳ありませんが、ご了承願います。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

3

失敗

17/02/27 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:5件 ツチフル 閲覧数:488

時空モノガタリからの選評

生きることは生死をはじめ思い通りにならないことの連続で、はかりにかけたなら、やはり苦の方が多いものかもしれません。生きることはなんと難しいことでしょうか。私」は確かに社会では「ゴミ」扱いされているかもしれませんが、誰でも何かの拍子に、このような立場になる可能性がないとは言えません。その苦しさゆえ死にたいと願って失敗した結果、生死に執着がなくなったはずなのに、最後には一抹の生存への希望が残っていたところは皮肉ですが、人間というのはやはりそうした矛盾を秘めているものなのでしょう。「やることなすこと全て失敗」した彼が、ユーモアをもって最後に笑うことができたらなら、幸せだったのではないでしょうか。その他、謎の少年と彼の会話の内容が謎めいていて、不思議な読後感が残りました。

時空モノガタリK

この作品を評価する

 まともに生きることに失敗。
 やけになって人を殺そうとして失敗。
 自分を殺そうとして失敗。
 もういちど懸命に生きようとして、大失敗。
「まったく何て人生だ。やることなすこと全て失敗に終わるんだからな!」
 私はどうでもよくなって、銀行から全財産を下ろしてナンバーくじを買う。
 もちろん、すべてはずれだった。
 無一文になった私は、公園でホームレスを始めることにする。
 ところが公園には先住者たちがいて「あんたを受け入れる場所がない」と、私の転居を拒否した。
 さあ、困った。
 私の行き場所がない。
 私の生き場所がない。
 仕方がないので、誰も通らないような路地裏に湿ったダンボールを敷くことにした。
 こんなところに何日もいれば、すぐに飢え死にしてしまうだろう。それならそれでいい。
 死の訪れは大歓迎だった。
 ところが、それも失敗する。
「ダンボールだけじゃ寒いでしょう」
 親切な女性が毛布をくれた。
「これ、よかったらどうぞ」
 親切な青年が、パンと飲み物をくれた。
「家族と暮らすことになったんだ。よければ俺の場所を使ってくれ」
 年老いたホームレスが、冬でも過ごしやすい場所を譲ってくれた。
 だから、私は今日も生きている。
 行き交う人々の声を、シャワーのように浴びながら。
「あんた、何のために生まれてきたの?」
「うわ、くせっ!」
「社会のゴミって本当にいるんだな」
「どうして死なないの? 死ねばいいのに」
「あの、生きてくださいね。きっと良いことありますから」
「ねえねえ。人生のロスタイムを過ごすのって、どんな感じ?」
「俺があんただったら、超すぐに自殺するけどな」
「そこ、邪魔」
「百円やるから一発殴らせてよ」

 久しぶりに飲むジュースは、血の味がした。

    ※

「ねえ、おじさん。これ、あげようか?」
 ある日、少年がカプセルを差し出してきた。
「死にたがっている人にあげなさいって、父さんがくれたんだ」
 それは透明のカプセルだった。中には白い粉末が詰まっている。
「毒なんだって。人がすぐに死んじゃう毒」
「そうか」
「おじさん、死にたい? 死にたいならあげるよ」 
「…さあ、どうかな。どうなんだろう」
 わからない。今はもう、生きるのも死ぬのもどうでもいい気分だった。
 カプセルを飲んで死ぬなら、それもいい。
 カプセルを飲まず、このままぼんやりと生きていても苦痛はない。
 どうでもいい。
 だから。
「君に任せるよ」
「うん。じゃあ、口を開けて」
 言われるままに口を開けると、少年が舌の上にカプセルをのせてくれた。
「はい、飲んで」
 そう言って、地べたに転がっているペットボトルを渡してくれた。
 水と一緒にカプセルを飲み込むと、固く丸い感触が喉を滑り、食道を抜けていくのがわかった。
 ああ、これでおしまいか。
 じきに苦しくなるのだろう。身体中がしびれて、動かなくなるのだろう。
 もうすぐ終わる。
 私が死ぬ。
「おじさん。どうして泣いてるの?」
「…ああ。どうやら私は、死にたくなかったみたいだ」
「え、そうなの? じゃあ、カプセルを出さないと」
「いや、大丈夫さ。私は何をやっても失敗ばかりするんだ。きっと、このカプセルだって効かないよ」
「そうなの?」
「そうさ。きっと…… そうさ」
 身体がしびれてきた。手が思うように動かない。息が詰まる。呼吸をしようとしても、空気が入ってこない。
 身体が冷たくて、熱い。
「おじさん?」
 ひどく心配そうな声。少年の顔がぼやけて見える。
 ああ、死にたくないな。
 失敗しないかな。
 もし、これで死ぬことに失敗したら。
 そうしたら、今度はちゃんと生きる努力をしよう。
 何度失敗しても、生き続けよう。
「―― らね」
 少年が何かを言って駆けだして行くが、私には聞こえなかった。
 もう、何も聞こえない。何も見えない。
 そこで気づく。
 ああ、そうか。
 私は。
 死ぬことに失敗することに、失敗したのだと。
 そう考えると、少しおかしい。
 笑えてくる。
 そうだ。
 笑おう。
 最後の顔は笑顔にしよう。穏やかに笑っていこう。
 どうかな。
 上手く笑えているだろうか。
 もし、笑顔でいられたなら。
 
 それは、成功だ。

   (了)


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/02/27 まー

死の間際で大切なことに気づけたなら、失敗の連続でも成功した人生なのだろうと思います。終わり良ければ総て良しともいいますしね。
何とも深い余韻が残る作品に出会えてよかったです。ありがとうございました。

17/02/28 ぴっぴ

大変面白く読ませてもらいました。毒の登場がスーパーに置いてあった『毒入り!食べるな』を手にするようなシチュエーションではなく、あえて少年の親からもらった殺人毒というのは『良かれと思ってしてあげたことのはうが、かえって人を殺す』というふくみなのでしょうか?

私の考えすぎですかね?(*^_^*)

17/03/13 ツチフル

17/03/13 ツチフル

思いつきで書き始めて感覚で繋いでいった結果、このような作品となりました。
色々なとらえかたをしていただけて、書いた私の方が気づかされることもあります。

まー様、ぴっぴ様、読んでいただきありがとうございました。

17/04/12 光石七

拝読しました。
漂う哀愁と主人公の最後の心境に涙が滲んできました。
少年は人を呼びに行ったのではないかと解釈した私は、主人公には助かって生き直してほしいと願っています(見当はずれでしたらすみません)。
余韻の残る深いお話でした。

ログイン
アドセンス