1. トップページ
  2. 電脳都市の時空のすきま

Fujikiさん

第90回時空モノガタリ文学賞【祭り】入賞          第92回時空モノガタリ文学賞【沖縄】入賞          第94回時空モノガタリ文学賞【曖昧】最終選考        第95回時空モノガタリ文学賞【秘宝】最終選考        第96回時空モノガタリ文学賞【奇人】最終選考         2015年大阪ショートショート大賞【行列】佳作         第99回時空モノガタリ文学賞【失恋】最終選考         第105回時空モノガタリ文学賞【水族館】最終選考        第110回時空モノガタリ文学賞【雨】最終選考          第112回時空モノガタリ文学賞【弁当】入賞         第114回時空モノガタリ文学賞【パピプペポ】最終選考      第117回時空モノガタリ文学賞【本屋】最終選考         第118回時空モノガタリ文学賞【タイムスリップ】最終選考   第120回時空モノガタリ文学賞【平和】入賞           第126回時空モノガタリ文学賞【304号室】入賞       第127回時空モノガタリ文学賞【新宿】最終選考   第137回時空モノガタリ文学賞【海】入賞          にふぇーでーびる!

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

3

電脳都市の時空のすきま

17/02/27 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:6件 Fujiki 閲覧数:372

この作品を評価する

 僕が時空モノガタリに2000字小説を投稿し始めて約一年半が過ぎた。投稿はこれが40作目、入賞回数は5回。落選が続くとさすがにモチベーションが下がるけど(今のところ連続落選記録は18回)、書くのをやめた時が負けた時だと自分に言い聞かせてしつこく書き続けている。誰に対する負けなのかは不明だ。そんなスポ根式努力が実を結んだのかどうかは知らないが、ありがたいことに去年の冬に出版された『時空モノガタリ文学賞作品集 #零』に一編載せてもらった。
 時空モノガタリのいいところは書いた手ごたえがはっきりと得られることだ。閲覧数が伸びると嬉しいし、評価のメールが届くともっと嬉しい。コメントが入ると歓喜にむせび泣く。時空モノガタリKさんをうならせたくて、小説としては破綻すれすれの変化球を投げて自爆することも多い。一次選考で最後まで読んでもらえるのかどうかも分からない大手の文学賞ではこうはいかない。また、他の作者の投稿作が読めるのも小説投稿サイトならではの利点だと思う。華々しく活躍する作者たちに対して僕は勝手にライバル意識を燃やし、自作を書く動機づけにしている。どんな人間が書いているのか気になって時空作者のツイッターをけっこう頻繁に覗き見しているのは、ここだけの話。我ながらキモい。
 幽霊が時空モノガタリに出没しているという噂を知ったのもツイッター上だった。幽霊といっても亡くなった方の魂ではない。幽霊部員みたいに登録だけしてアカウントを放置しているユーザーのことでもない。ユーザーの実在しない架空アカウントがいくつもあって、それらが作品を書いて投稿しているというのだ。
 はじまりは一人の時空作者のささやかな見栄だった。その作者は自分の小説に対する反響の薄さを気にしていた。いくら投稿しても閲覧数は思うように増えていかず、評価は0ポイントのままだ。相互にコメントしあう仲間を増やそうと他の作者の作品にお世辞のコメントを残して回ったものの、自作にコメントを返してくれる人はいなかった。毎回最高傑作を投稿しているつもりの彼には、読者がつかないことがどうしても納得いかなかった(以下「彼」という男性代名詞を用いるが、あくまで便宜的なものだ)。
 他人に相手にしてもらえないなら、自分で評価をつければいい。彼が幽霊アカウントの作成を思いつくまでには長くかからなかった。フリーメールで使い捨てのアドレスをいくつも作り、住所も電話番号もでたらめを記入した。同一人物のアカウントであることがバレないようにプロフィールは創作意欲を発揮して念入りに作った。「らぶりーポーポー」さんは亜熱帯の島に出没する小説家志望の女子大生、「お泥水博士」さんは読書が趣味の男性会社員、「盲目ナイフ」さんの座右の銘は「本当に大切な物は目に見えない」といった具合に。幽霊たちは彼の作品が投稿されるたびに評価を入れ、賛美のコメントを綴った。もちろんアカウントにログインしているのは彼一人だ。自作自演でこそあれ、人気作者のようにコメント欄がにぎやかになって彼は嬉しかった。念願だったランキング入りもあっけなく果たした。
 現在、彼は時空モノガタリに作品を投稿していない。一人芝居が虚しくなったか、あるいはただ単に飽きてしまったのだろう。結局、幽霊以外からコメントはもらえず、彼がコンテストで入賞することもなかった。後に残されたのは彼が作った無数の幽霊たちだけだ。役目を失った彼らはそれぞれの物語を2000字小説の形で語り始めた。この電脳都市の一角においては小説を書いて投稿する他にすることもない。彼らが書いた小説は好評を博し、常連でコンテストに入賞する者も現れた。幽霊は虚栄心や嫉妬、寂しさや承認欲求といった人間の煩悩が凝縮されて生まれた存在であり、それらの生々しい思いを物語にぶつけて昇華させている。読み手の心を動かすのも当然だ。
 ただ、銀行口座を持たない彼らは入賞しても賞金の受け取りようがない。賞金支払いに関するメールに答えない作者が何人も現れたため、幽霊アカウントの存在は時空モノガタリ事務局の知るところとなった。目下のところ、事務局は幽霊を発見するたびに一時的にサーバーを停止して一つ一つ成仏させることで対処しているらしい。除霊作業のあいだはユーザーがサイトにアクセスできない、いわゆる「時空ダウン」と呼ばれる現象が発生する。多少不便には感じるが、人が手作業で運営している感じが伝わってくるのも時空モノガタリならではのよさだと僕は思う。
 採算度外視の暴挙ともいえる作品集が奇跡的に売れたら、時空作者が一堂に会するパーティーが開かれないものかと僕はひそかに期待している。僕の一番の願いは他の作者と直接会うことだ。顔を見て話をし、できれば友だちにもなりたい。彼らが幽霊でないことを確かめられれば、都市伝説の真偽が明らかになるはずだ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/02/27 タキ

テーマ【304号室】入賞おめでとうございます。Fujikiさんの作品をいくつか拝見して、小説として完成度が高いと感じていました。しかし、評価ポイントの履歴を見て「もっと評価されても良いのでは」とか、「時空モノガタリというサイトのカラーに合ってないのかな」などと勝手な事を考えていました。この【電脳都市の時空のすきま】から、Fujikiさんの創作への真摯な姿勢や、時空モノガタリに対する愛着が見えて、とても興味深く読ませて頂きました。

17/02/27 Fujiki

タキさん、ありがとうございます! とても嬉しいです!
賞などの形で評価がもらえた時にはすごく幸せで励みにもなるのですが、そういった他者の評価に依存し過ぎると怖いなとも感じています(そういう意味で今回の話は、私の中では若干ホラーです)。一人で書き続けることに少しずつ順応できれば理想的だとは思いますが、かといって他者を意識しないと独りよがりな分かりにくい文章になってしまうので、難しいところです。

17/03/01 まー

たまに繋がらないことがあるんですが、「時空ダウン」だったんですね(笑)。
実際に自作自演をしているユーザーはいるのでしょうが、真剣に作品を投稿している人などが見れば嘘か本当かは何となくわかるだろうと思います。何の得もない理解し難い行為ではあるのですが、Fujikiさんのおかげでそういった方の気持ちを汲み取ることができました。ありがとうございます。

17/03/03 Fujiki

まーさん、コメントありがとうございます! とりわけネット上では他人の理解しがたい行為を見聞きする機会がしばしばありますが、正論や正義を振り回して叩く人たちに加わるのは気が引けます。少なくともフィクションの中では価値判断を一時保留して他者に対する想像力を働かせたいものです。

17/03/04 冬垣ひなた

Fujikiさん、拝読しました。

テーマ『304号室』入賞おめでとうございます。Fujikiさんの作品は拝読していて、文章力・クオリティーも時空モノガタリの中では抜きん出た実力者と創作姿勢を見習う次第です。恒例となった「時空ダウン」の裏に隠された都市伝説、本当の所が知りたいですね。しかし幽霊アカウントの小説も読んでみたいなという気もします。時空モノガタリへの想いが伝わるお話をありがとうございます。

17/03/06 Fujiki

冬垣さん、ありがとうございます! キリのいい数まで書き溜めたら、時空モノガタリを舞台にした話を投稿することに決めていました。ネタになりそうな時空あるあるが多いというのも理由の一つですが、小説投稿サイトは題材として面白いと思っていたからです。まったく違う人生を歩んでいる普通の人々が互いの顔や名前さえ知らないまま、心の奥深くから湧き上がってくる物語を伝えあっている空間というものはそうあるものではありません。

ログイン
アドセンス