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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 図書館にある子どもの本を全て読むこと。 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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駆け落ちは強い男の必須条件!

17/02/27 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 ちほ 閲覧数:262

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 昨日、ウォルターは5歳の誕生日を、父や友達や父の店・パブ『ロビン』のお得意様に祝ってもらい嬉しかった。大人になれたと思ったので、7歳のアリアに愛の告白をした。彼女は、ばら色に頬を染めて頷き、こっそりウォルターの耳に囁いた。
「駆け落ちしましょう」
「カ・ケ・オ・チ?」
「えぇ、愛しているなら駆け落ちよ。2人だけで生きていくのが大切なの。明日の夜6時、桜の木の下で待ってるわ。お父さんとはお別れするのよ。強い男になって」
    ◇
 もうすぐ約束の6時だ。今日は定休日なので、店にお客様はいない。父は夕食を調理している。ウォルターは、そんな父の姿が好きだった。が、それももうお終いだ。そんな想いで泣き出しそうになる自分を叱咤し、店のドアに手をかけた。ドアベルが、カランコロンと派手に鳴ってしまう。
「ウォルター、何処へ行くんだい? 遊びに行くような時間じゃないよ?」
 父が、濡れた手をエプロンで拭きながら、心配そうに小走りでやってきた。別れを言うのは辛いので、何も言わずにそっと出ていくつもりだったのだけど。
「うん、ボクね、ちょっとカケオチしにいくの」
「あぁ、そうかい。じゃあ、気をつけ……え? ちょっ、ちょっと待ったぁーっ!」
    ◇
 店内で、父は幼い息子の話を真面目に聞いた。
「ボク、アリアちゃんがすきなの。ふたりでくらすの」
「アリアちゃんって、雑貨屋『ショコラ』の?」
「うん」
「そっかぁ、寂しくなるなぁ」
「じゃあ、ボクのひよちゃん、かしてあげる。そしたら、さみしくないよ?」
「ひよこのぬいぐるみの? うーん、お父さんは君にいてほしいんだけど?」
「そんなわがままいっちゃダメだよ。ボク、アリアちゃんとカケオチだもの」
「もう、君に会えなくなるのかい? やっぱり寂しいなぁ」
「あのね、カケオチしないとつよいおとこになれないの」
 父は、ウォルターの言葉に一切反論せず、ただ寂しいと繰り返す。「辛かったら、いつでも帰っておいで」と温かな言葉まで贈る。父のピートは、ウォルターの母の再婚相手で、母が亡くなった後もウォルターと生活を共にしている。血の繋がりはないけれど、ウォルターは、いつでも安心して心優しい彼に甘えることができた。彼と別れるのは身を切るように辛いが、自分はもう泣いてばかりの子どもじゃない。5歳になったのだから、ちゃんカケオチして強い男になりたい。ウォルターは、まぶたに宿っていた涙を消そうと努力した。それから深呼吸を一つして、父に別れの挨拶をした。
「いままで、ほんとにありがとう。お父さん、なかないでね。さようなら」
 店を飛び出したウォルター。父も、駆けていくウォルターの後を追う。止めはしなかった。ウォルターは、親なしで生きていくにはあまりに小さな子ども。泣いて帰ってくるとわかっていた。
「夕食前には帰っておいで。今夜は、アジのフライと美味しいスープだよ」と父は呟いた。
    ◇
 幼い足がパブ『ロビン』のドアから11歩目を踏み出した時、ウォルターはつまづき顔から転んだ。歯を食いしばって起き上がる。唇に触れてみて血がついたことで動転した。いろんな想いでいっぱいいっぱいだった小さな胸は、破裂しそうになっていた。
「……お父さぁん」
 ぽろぽろと涙が零れる。
「大丈夫かい?」
 ウォルターの背後から、父が心配そうに声をかけた。
「あのっ、あのねっ」
 勢いよく振り返り、涙を拭うこともせず、ウォルターは大きな声で訴えた。
「あのね、血がでたぁー!」
「ほんの少しだよ。なめとけば大丈夫」
「おでこもいたいのー!」
「こぶができるかな? 痛くなくなるおまじないをしてあげるよ」
 ウォルターの心はとうとう弾け、大好きな父の胸に飛び込み泣きじゃくった。
    ◇
──夕食の席にて

「ボク、お父さんのようにつよいおとこなりたかったのに」
「まだ小さな男の子でいいんだよ」
 父の手が、ウォルターの頭を優しく撫でた。ウォルターは、温かなスープを飲みホッとしたところで大切なことを思い出した。
「アリアちゃん、どうしているかなぁ? ボク、あやまらないと」
「約束の時間は?」
「よる6じ」
「もう8時だよ。男なら約束は破ってはいけないよ。断るにしても……!」
(でたぁーっ! ときどきキビシクなるお父さんっ!)ウォルターは、首をすくめた。

──桜の木の下で

「ウォルター、いつ来るのよ! 怖気づいたのね! あんな男、もう知らない!」
 暖かな夜風が、彼女の豊かな髪を揺らした。散りゆく薄桃色の花弁が、そっと彼女の髪に舞い降りる。
「せっかく、ロマンチックなお姫さまになってみたかったのに。あーあ、駆け落ちは失敗ね。……おなかすいたから、もう帰ろ」
 
──春の宵に消えた幼すぎる2人の恋。月は静かにみていた。


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